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『三宅やよい句集』 現代俳句文庫Ⅱ 




 三宅さんは坪内稔典さんの「船団」で育った人。同結社散在の後は、「窓の会」に常連として参加されておられる。解説に池田澄子、一句鑑賞に坪内稔典、あざ蓉子、さらに穂村弘が寄稿している。二〇二四年八月八日、ふらんす堂発行。


 小生の好きな句は次の通り。


009 夕立を配って回る郵便夫

011 キューリ切り母の御紋を思い出す

016 くらがりに靴のふえゆく花野かな

024 写真はみだす煙突も囀りも

027 化粧臭き母と並んで春惜しむ

038 駆けて来るプールの匂いとすれ違う

041 菊人形首は倉庫に並べおり

051 あるときは走ってみたい海鼠です

057 妻と犬呼び間違えてクロッカス

069 電球のまわりをめぐる盆踊り

075 焼芋が好きで悪党にはなれず


 日常生活の一瞬を切り取ったような、自由で、軽いタッチの句が多い。小生が特に感銘を受けた二句を再掲しよう。


011 キューリ切り母の御紋を思い出す

 何でもない句である。胡瓜を輪切りにしたら、その断面が家紋に見えた。そう、母方の皆が何かの折に着ていた羽織の紋に似ている。一瞬、懐かしさがよぎった。


016 くらがりに靴のふえゆく花野かな

 花野は単純に明るいだけではない。特に夜になってからの花野は、人々のいろいろな過去を背負って、そこにあるように思える。そこには亡くなった人々の靴が脱ぎ捨ててあるのだ……と作者は思っている。


 有難う御座いました。

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