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『岸原清行集』

 岸原清行(「青嶺」主宰)さんが既刊の四句集と近詠から300句を選んで、該著を上梓された(2021年7月1日、俳人協会発行)。「青嶺」は今年7月で創刊20周年を迎えた。

 自註シリーズなので、短い解説が添えられており、鑑賞にとても役に立った。しかも漢字全部にルビが振られており、初学にも楽に詠める(このブログでは難読と思われる漢字にのみルビを入れた)。

 該句集は、氏の華北からの引揚げ、故郷(九州)とその歴史、お住まいの遠賀郡の日常、旅先の景などに基づいた作品から成っている。平明にして深い共感を呼ぶ句が多い。







 小生の感銘句は多数に及んだ。中からテーマごとに分けて挙げてみよう。


037 来し方も行方も青き山河かな

054 華北晩秋赤く大きな日の出でし

097 リュック背に灼くる大地を引揚げし

 小生は最近、大串章さんの『恒心』を読んだ。岸原さんと同じく満州からの引揚げ者であって、かの地の句が多かった。あれから七十年以上もたって、思いだすのは幼いころの満州ばかりであるとのお話を、大串さんから直接伺ったことがある。岸原さんにも、もちろん、語れば尽きない思い出があるのである。


 そして、氏の祖や故郷を詠んだ句には、

034 ふるさとの誰彼のなし草の花

105 野辺送り往きも帰りも鶴の天

123 大椨(おおたぶ)に凭(よ)れば祖のこゑ秋の声

がある。123は、氏の祖につながる黒田藩の支藩秋月のことである。その「大己貴神社」にこの巨木があるという。


018 鰯雲波止へ繰り出す離山の荷

 九州には炭鉱が多かった。エネルギー源が石炭から石油に替る段階で閉山が続いた。小生の故郷は北海道だが、同じく離山の場面が多く見られた。産業構造の転換による庶民の悲しみが暫く続いたのであった。


003 寝入らんとする目(まな)裏(うら)を今日の野火

058 帯となり大滝となり野火奔る

 野焼き・山焼きとなると、小生の経験では阿蘇の場面を思いだす。まさに「帯となり」「滝となり」侵すがごとく枯原を燃やし、空を焦がしていた。空には、火に追われて逃げて来る小さな獲物を狙って、鵟(のすり)が旋回していた。あの光景は、その夜だけでなく、今も眼奥に残っている。


016 春浅し村に一樹の翌檜(あすなろう)

119 青由布の裾ひろびろと牛放つ

 小生の好きな九州の観光地の一つに油布院がある。岸原さんの解説を読んでいて、016も由布の景(仏山寺の山門)であることを知った。


 そして、岸原さんのお住まいの近くの山や海には沢山の句材がある。

021 万葉の山の麓のかぶら売り

022 壱岐あをし海の中まで五月風

024 玄海の天(あま)かけて逢ふ星二つ

031 昼寝子の足裏(あうら)が見えて蜑(あま)の路地

131 野分波軍艦島は航(ゆ)く如し

 金印や万葉、さらに蒙古来襲の歴史、キリシタン殉教、波高い玄海灘の自然、雲丹や鮑を採る海女、漁村の日常などなど、羨ましいほどの句材がある。


 感銘句はほかにもある。以下に掲げておこう。


003 一片の紙が火となる雪の上

005 牛売りにゆくきさらぎの山の声

038 菜の花や遠賀太郎の水碧し

045 ゆくほどに嶺の遠のく花野かな

052 鷹柱ずんずん空の深みけり

084 送り火の消えなむとつと立ちあがる

091 はつふゆのぽぽと息つぐ和らふそく

101 海中(わたなか)の珊瑚も月をよむといふ

141 夜もあをき飛騨の郷里(ごうり)の一夜酒

144 黒潮の沖より晴れて帰り花


 総じて、自然や人々の暮らし、歴史などへの愛情を感じさせる句が多かったと思います。

有難う御座いました。

それから、創刊二十周年、おめでとうご御座います。



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