句集のうしろの略歴を見て驚いた。小生と同郷であった。私より三才年下だから、小中高校のいずれかが一緒だったかもしれない。このことは句の鑑賞に関係のないことながら、どうしても共時性を求めながら読んでしまう。
氏は30年以上の句歴を持っている。「童子」「みすゞ」「や」から石寒太主宰の「炎環」に1996年に入り、のち同人。2016年には「わわわ」の創刊同人。その第四句集である。朔出版、2022年7月15日発行。
自選12句は次の通り。
渋滞の師走の車よりイマジン
ゐるはずのなき母の声のこゑ花筵
戦争の終はらぬ星の星まつり
原爆忌玉子かけごはんきらきらす
生き方とみかんの剥き方変へられず
水旨き国に生まれて墓洗ふ
切る前の檸檬のかたち愛しめり
月の道すれ違ふとき悪女めく
もうすこし人間のまま月のまま
チューリップ秘密のいつも漏れてゐし
か行よりさ行やさしきさくらんぼ
首振らず頷いてみよ扇風機
小生の感銘句は次の通り。(*)印は自選句と重なったもの。
008 春はあけぼのターナーの海眩し
010 受話器置く後の沈黙ヒヤシンス
027 訪へば雛の部屋に通されし
043 戦なき海へ鯨を見にゆかむ
050 狐鳴く夜は風呂の湯熱くせよ
068 東京の空は三角桜桃忌
075 乾くまで人魚めきたり洗ひ髪
075 口出づる言葉戻らず百日紅
077 鰻喰ふいまが晩年かもしれぬ
085 どぜう喰ひ人間丸くなる夜長
096 つぎの世もにんげんであれ蒲団干す
104 獅子舞の口のなかより女ごゑ
105 湯上りの息うつくしき榾の宿
108 再会の柩の窓や冴返る
127 切る前の檸檬のかたち愛しめり(*)
130 優先席のをんな紅濃し文化の日
138 揚げる前すこしながめてふきのたう
143 オフェリアをお乗せたまへよ花筏
152 か行よりさ行やさしきさくらんぼ(*)
161 雄と雌分けて干さるる柳葉魚かな
169 老ゆること初体験よ春の服
176 明日食す浅蜊の水を取り替へし
181 冷蔵庫開けたるところ猫見たり
181 Tシャツの模様のおなじ知らぬひと
いずれも平明で納得の行く句ばかりである。粒ぞろいが並んでいるので、選ぶのに苦労する。同郷であることからより納得性を感じる句は、たとえば
161 雄と雌分けて干さるる柳葉魚かな
であろう。地元ではもうとれなくなったが、日高の鵡川あたりが残っている。子持ちの雌の腹が膨らんでいるのが特に美味である。
楽しませて戴きました。多謝。
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