中内さんは「海程」に所属し、2012年に「海程」新人賞と現代俳句新人賞を受け、現在、俳諧旅団「月鳴」主宰、福井県現代俳句協会会長を務めておられる。その第三句集で、令和五年八月十六日、」狐尽出版発行。
小生の気に入りの句を挙げさせて戴こう。
006 膕のやさしい昏さ春の妻
011 微風の輪唱で咲く糸櫻
051 湯冷めして酒を注ぐ手の美しき
054 女正月母には母の酒ありて
062 佛となる小さく小(ち)さく師の御顔
066 兜太先生白梅咲いてますね此処
087 紅葉掃く人みな腰を低くして
094 ひなあられ光を玉にしてこぼす
101 墓洗う大人が通う夜学かな
156 気嵐や胎児はまるくあたたまる
159 白鯨の座礁しており冬銀河
163 夕焼けのような花束のような約束
170 春満月戦車渋滞していたり
175 耳から先に目覚めて夏至の薄明かり
小生の最も気に入った二句を読んでみたい。
163 夕焼けのような花束のような約束
句意は平明。何かを「約束」したのだが、それは「夕焼け」のようで、しかも「花束」のような感じのものでした、という。やわらかく、女性的な句。「夕焼け」というから、美しいのだが、これから沈むのだという思いがどうしても付きまとう。「花束」のような、というから、これも美しく、切ない思いを伝えるもののよう。だが、なんとなく儀礼的でこれから枯れてゆくかもしれないという不安感がある。だから、この「約束」は、成就するのかどうか、妖しい不安感がのこる。明るいようでいて屈折感があるように読んだが、誤読であろうか。「花束」の「束」、「約束」の「束」の文字面の繰り返しに芸を感じる。
170 春満月戦車渋滞していたり
一転して社会性をおびた句を選んだ。ロシアによるウクライナ侵攻の場面であろうが、他の戦時の景でも良い。「渋滞」という連休の高速道を思わせる平時の市民感覚で「戦争」を詠んだ。この「ズレ」が実に面白い。しかも「春満月」のように戦争とはかけ離れた情趣のある季語を使って、戦車との「ズレ」を増幅させている。見事なアイロニーの句。
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