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中嶋鬼谷句集『第四楽章』



 著者中嶋鬼谷は秩父の出身で、楸邨の「寒雷」にて俳句を学び、楸邨没後季刊俳句同人誌「禾」を刊行した。『峡に忍ぶ 秩父の女流俳人 馬場移公子』など多くの評論集を刊行している。その第四句集で、ふらんす堂、二〇二四年二月二十二日発行。山下知津子が丁寧な栞を書いている。帯には同氏が選んだ、次の十二句が掲げられている。


  遠汽笛夜明けの霧の青みたる

  グラスの縁なづれば音や枯木星

  天狼に見つめられつつ老いにけり

  国深く病めりと記す初日記

  夕立の白き闇なす故郷かな

  すさぶ世の影の行き交ふ秋の暮

  木菟啼くや闇がふくらみまた縮み

  灯を消しぬ欅の芽吹き思ひつつ

  これは何それ喉佛霜のこゑ

  枯葎見るべきほどのこと未だ

  麦熟るる頃ふるさとを捨てにけり

  狼祀る一峰暗き片時雨


 小生の共感句は次の通り。(*)印は山下知津子選と重なったもの。


012 葦牙にたぷんと水脈の名残かな

017 長梅雨のあがりし森のにほひかな

021 噴水の疲れし水の倒れけり

030 遠汽笛夜明けの霧の青みたる(*)

043 天狼に見つめられつつ老いにけり(*)

059 幕なして沖を雨くる夏料理

066 終電車あかりを消して月の駅

087 藁屋根の雨に重たき雛の家

092 頸立てて雄鶏走る驟雨かな

097 あがりくる雨の明るき竹の春

100 群羊の霧の中から現れし

104 小夜時雨木霊も濡れて帰りしか

107 虚子といふ安全地帯に炬燵猫

116 ぼたん雪家郷への道闇に浮き

118 みづうみの島に灯ともる春祭

118 燕とぶ水の照り映え胸にうけ

124 蕗の葉をたたきて山の雨きたる

144 風花と誰かが言ひてみな急ぐ

151 山茱萸の花に雨降る家郷かな

160 しろがねの茅花流しに吹かれをり

167 かきあぐる手櫛の指も夜の秋

167 多佳子忌の綾にほぐれし栞紐

172 手摺なき橋に出でけり風祭

174 風の夜の栗落つる音峡の音


 選んだ句を振り返ると、社会性や政治性をおびた句よりも自然詠的な句を多く採っていたことに気が付いた。小生の好みであろう。だが、鬼谷さんの持ち味は、反骨精神を持って社会思想的な思惟やうれいを句に織り込むことであったのではないかと、今更ながら気が付いた。

  国深く病めりと記す初日記

  すさぶ世の影の行き交ふ秋の暮

などである。だから小生のこの抄録は、鬼谷さんの本意を外しているかも知れない。そのことをお断りしたうえで、小生のイチオシを掲げて、句集へのお礼としたい。


043 天狼に見つめられつつ老いにけり(*)

 「天狼(星)」はシリウスのことで、恒星の中では一番明るいらしい。冬の季語である。鬼谷さんが秩父生まれであることから、小生の想念が兜太や「狼」に移り、そしてさらに「天狼」へと繋がっていくのである。その明るい星にいつも見つめられながら、一生をひたすらに真っ直ぐ老いてきた。その万感をこめた一句なのである。


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