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中戸川由実句集『プリズム』



 中戸川さんは平成十二年から父中戸川朝人「方円」主宰のもとで俳句を始め、平成二十七年に季刊同人誌「残心」を創刊された。その第二句集で、二〇二四年十二月十五日、ふらんす堂発行。


 自選句は次の十二句。


  胸の子と影をひとつに初御空

  退さりても退さりてもなほ花辛夷

  波の紋踏みて汐干の人戻る

  春夕焼みんな巻毛の天使象

  湯にひらく赤子の五指や新樹光

  切尖まで水のいのちの花あやめ

  黒南風や天水盤に鋳物師の名

  中今の母の背拭ふ良夜かな

  小説の中の雨音黒葡萄

  長き夜のじゆごんのやうな抱き枕

  ひだまりの椅子に母載る小春かな

  雪雲や海までつづく祈りの灯


 小生の感銘句は次の通り。


010 船籍は遥かなる国南吹く

052 嫁ぐ子の片道切符鳥雲に

067 海の塩山の塩もて夏料理

067 白南風やマリア像おく操舵室

106 指栞して春眠の膝の本

130 ひと掴み母にも持たせ年の豆

132 初ざくら墨の匂ひの文届く

152 奥千本あたりは桜隠しかな

158 四十雀娘の部屋に友泊めて

169 木犀の門扉をひらく帰国の夜

179 帯結ぶ合せ鏡に春立てり


 小生のイチオシの句を挙げておこう。


152 奥千本あたりは桜隠しかな


 吉野の奥千本。今日の天気の奥千本なら、「桜隠し」の雪が降っているだろうなあ、という想像の句であろう。眼前の景ではないのだが、吉野の桜の時期、上まで登ってみた桜。この世のものとはお目ないほどの全山さくら桜々々・・・。その記憶に今日の雪模様を重ねている。ああ、あの奥千本なら雪だろうなあ・・・。満開の桜にしんしんと降る雪。西行庵も芭蕉の句碑も雪を被っているに違いない。「奥千本」と「桜隠し」の俳号が絶妙。

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