仲さんは大牧広主宰の「港」に学び、2005年に角川俳句賞、14年には第二句集『巨石文明』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受けている。現在「牧」「平(ふらつと)」の創刊代表で「群青」の同人。その第三句集である(ふらんす堂、2023年7月20日発行)。栞は櫂未知子さん(「群青」代表)による。
自選15句は次の通り。
祭いま角を海へと曲がりけり
校庭に巨大✕(ばつてん)卒業す
朝顔育て宇宙飛行士志望
国家からすこし離れて葱坊主
峰雲の中に峰ある昏さかな
どこにでもゐる小林と野焼見に
日本に醤油ありけり冷奴
野分雲神の垂れ目がのぞきけり
この町に暗室いくつつばくらめ
ただ風に吹かるるための夏帽子
どの扉開けてもそこが春の牧
花曇とは文房具屋のにほひ
わが去りし席が消毒され西日
万緑の真中クリムトの「接吻」
瓢箪にくびれ作りし神を信ず
小生の感銘句は次の通り、多きに達した。
007 当局の者とおぼしき黒外套
011 片われは龍宮にあり桜貝
014 みづうみは薄目あけたりほととぎす
017 気仙沼
陸にある船の下よりきりぎりす
020 父のする変な体操小六月
026 向日葵はおのが後ろの闇知らず
037 売りに出す本読みふける雪の夜
040 国家から少し離れて葱坊主(*)
057 うららかやあくびのごとく人吐く駅
060 日本に醤油ありけり冷奴(*)
063 神々の箱庭として合掌村
065 世界史に悪妻多し曼殊沙華
071 恋の意味知らぬ強さや歌留多取り
081 芒原風も途方に暮れてをり
091 花守のいつも何かに怒つてゐる
094 核弾頭のほどの筍いただきぬ
097 真つ直ぐに来し台風と渋谷で会ふ
099 秋灯や母ゐてこその父の家
107 死して出ることも退院寒月光
113 父でなく老人五月闇の底
119 潮騒に祭の音のまぎれこむ
128 他にすることはないのか冬の波
135 いつ影と入れ替りしや夏の蝶
139 螢火や水音のして水見えず
164 白桃を賄賂のごとく手渡さる
171 炬燵てふ言葉猫語にきつとある
187 箱庭に三十五年後の自分
193 瓢箪にくびれ作りし神を信ず(*)
多くの好句から私のイチオシを挙げておこう。
040 国家から少し離れて葱坊主(*)
寒蝉さんに社会性俳句が多い訳ではない。どちらかと言うと、目で観たことや物の特徴を見事に活写し、読者に「ああ、そうだよね」と思わせる日常作品が多い。平明で印象鮮明。
だが、この句は少し持ち味が違う。世の中の雑事とは関係なく、すっくと立っている「葱坊主」の立ち姿を書いた。一本ではなく、おそらくは整然と並んで立っているのだろう、と私は読んだ。それが、話は飛躍するが、何か規律集団のように思えた。軍隊とまでは言うまい。肝心なのは、それが「国家から少し離れて」存在していると書いていることにある。
「葱坊主」が何を象徴しているかははっきりとは言えないが、「俳句は象徴の詩」だと勝手に思いこんでいる私としては、何かの象徴であって欲しいように思っている。余韻のある句である。
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