保里さんは「波濤」「青芝」「海鳥」を通して俳句を学び、現在は「超結社朱夏句会」(なつはづき代表)および「青山俳句工場05」(宮崎斗士代表)のメンバーである。現代俳句協会、令和六年三月十四日発行。
序文と跋文は、宮崎斗士となつはづきが、多くの好句をあげて書いている。お二人の共選句には次の句があった。
蟬時雨ひとつの問いに答え百
歓声の渦スパイクは夏を蹴る
かっこうや指が覚えていた和音
春紡ぐひとりの窓のメゾフォルテ
初勝利残暑まみれの野球帽
小生が気に入った句は次の通り。
019 さえずりに宙の扉が動き出す
022 薄氷や恋の始まるハイヒール
024 恋文は切手不足や夏が来る
035 首筋がずきずき痛い鶏頭花
038 木枯に口答えする裏の木戸
042 恋猫の斜めにいけば早いのに
059 マフラーにLОVEの文字ある忘れ物
082 おでん鍋ちくわのような愚痴を言う
090 楤の芽や八十にして五十肩
099 秋の蝶何度も道を聞き直す
115 白薔薇優しい嘘をつき通す
117 良かったと繰り返し言う親燕
121 鶴と亀を追いかけまわし夏終る
句集全体を通して、メルヘンチックな新鮮さとユーモラスな機知が見えて来る。いや、それだけでなく、詩の条件でもあるアイロニーやペーソスも込められている。従って、客観写生句や花鳥諷詠句ではなく、自己の感受や心理を忠実に詠んだ句が多い。如何にも現代俳句的である。かといって難解でなく、シュールな前衛でも社会現象を悲憤慷慨することもなく、境涯を語るのでもない。安心して、気持ちよく読める句集である。
小生のイチオシを挙げておこう。
024 恋文は切手不足や夏が来る
思い出なのであろう。恋文を書いて投函したが、返事がない。彼にはその気がないのであろうか。いや、ひょっとして郵便局の手違いで誤配か行方不明になったのではなかろうか? 規定料金分の切手を貼っただろうか? 不安は尽きない。このまま夏休みに入ってしまうのか? 不安な乙女ごころが「切手不足や」で見事に活写されている。
楽しい句集でした。
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