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前川弘明句集『蜂の歌』





 前川さんは「海程」の創刊同人で、海程賞など多くの賞を受けておられる。西九州現代俳句協会の会長でもあられる。その第六句集で、2022年7月1日、拓思舎発行。


 帯には次の14句が抜かれている。


  梅林を行くたましいの冴えるまで

  はればれと赤子ころがす春の芝

  紫陽花に雨音いいなあ日曜日

  飛び込みのみんな十字架のかたち

  正面に吊るす八月のカレンダー

  ぎっしりと塩壺に塩爆忌くる

  ピカソの絵傾いている薄暑かな

  黄落やしずかに薬缶噴きはじむ

  過労の医師葡萄一粒づつ甘し

  抱けば鳴る楽器と帰る霧の家

  咲く科学殺める科学大銀河

  銀河から跳ねる魚を釣りに行く

  鶏冠の赤を走らす霰かな

  青し青し被爆の川を葱がゆく


 小生の感銘句は次の通り多数に及んだ。


001 戰なき山河尊し屠蘇を受く

006 目刺噛む一茶蕪村は酒の味

011 ベネチアまで帽子を買いに春の雲

016 蟻の列に裸足の象が近づき来

019 屑籠に白紙ばかりの敗戦日

041 歯に舌に雑煮親しき命かな

064 吊革に戦争知らぬきれいな手

082 猪の出る話睫毛を付けながら

108 あの夏のカモメは赤かったと思う

134 雪とおもう山茶花の赤散る夜は

148 初蝶がよぎり氷瀑うごきだす

158 花吹雪浴び猟銃の冷たさよ

173 火花踏む心地であゆむ爆心地

184   虐待死した幼児あり

    おかあさんと呼ぶ母不在真夜の鵙

186 さびしくて佐藤春夫の秋刀魚食う

188 肘しめて寒紅をひく母亡き妻

203 雛壇を仔猫がのぼっていく月夜

208 凡俳人頭寄せあい蝌蚪覗く

213 青春の雑記を花菜のように焚く

222 爆心の緑陰にあり乳母車

245 マスクして眼玉大きくなりにけり


 「海程」というと前衛俳句を思うが、第六句集だからであろうか、分かりやすい作品が並んでいて、安心する。解説するまでもなく、よく伝わってくる句が多い。


148 初蝶がよぎり氷瀑うごきだす

 バタフライ・イフェクトという言葉を思い出す。蝶の羽ばたきのようなささいな動きが世の中を動かすことがあるという譬え。小生は南米の氷河を前に、氷河が湖に崩落する音響とともに草が揺れ、蝶が飛び立つ感覚を味わったことがあり、それ故にこの句の気合がよく分かる。


158 花吹雪浴び猟銃の冷たさよ

 花吹雪に猟銃を配合した妙。どんな場面なのかは不詳だが、魅力を感じた。


173 火花踏む心地であゆむ爆心地

222 爆心の緑陰にあり乳母車

 長崎ご出身の前川さんならでは句。経験からくる「感覚」が詠まれている。他にも沢山あった。それらには、「爆忌」という、多分「長崎忌」を避けた季語をお使いであった。思いが伝わる。


208 凡俳人頭寄せあい蝌蚪覗く

 俳人が対象をよく見るという習慣を、やや揶揄的に書いている。小生も「俳句依存性症候群」という句を作ったことがあって、面白かった。


 ありがとうご座いました。

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