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及川奈奈夫句集『鰻捕り』




 

 及川さんは「きたごち」の人。同結社の賞をもらっている。丁寧な序文は柏原眠雨主宰。お住まいの宮城県登米市はキリシタン殉教の地でもあって、関連した作品も含まれている。殉教は天草だけではないのである。そして東日本大震災にも遭っている。風土性豊かな句集である。本阿弥書店、2022年10月30日発行。


 主宰が選んだ及川句は次の12句。


  鰻捕りぽんぽん船の澪とどく

  初雁の駅舎掠めて列を解く

  殉教碑へ十指を組めり炭焼夫

  声掛けて牛に寄り添ふ夜半の火事

  料峭の尖塔へ飛ぶ火伏せ水

  寿庵碑へ一礼をして畦を塗る

  啜る肝に温みありけり沖膾

  再建の浜の社の初音かな

  秋の蠅すがる小部屋の懺悔台

  箱庭に原爆ドーム加へけり

  八幡の太郎杉より巣立鳥

  遠山を測る鉛筆鰯雲


 小生の感銘句は次の通り。


018 春障子開けて時報のビバルディ―

025 澤蟹を弁当箱に捕へけり

041 教会の塔を逆さに石鹼玉

041 子雀や叱られてゐる隣の子

051 対岸と声投げ交はす芋煮会

060 破魔矢持ちウルトラマンの面駆くる

061 寒戻る造り酒屋の女中部屋

063 復興の市にアカペラ風光る

072 ちちははの仏間に寝かす初南瓜

080 寒鱈の腹に貼らるる糶の札

083 声掛けて牛に寄り添ふ夜半の火事(*)

084 雛の日やスマホに届く胎児画像

094 津波禍の鉄路を覆ふ葛の花

107 螺子巻いて柱時計の年用意

111 初曆の表紙の富士を捲りけり

123 生家なきはらから集ひ墓洗ふ

130 手招きのハロウヰン魔女の酒場かな

138 白杖の顎上げて聞く梅の風

147 箱庭に原爆ドーム加へけり(*)

159 相席のマスク外せば泣き黒子

163 初売や迷子の提ぐる福袋

168 削蹄の爪掃き寄せて牧開く

185 長靴に荒縄捲いて除夜詣

200 四度目のマッチポイント熱帯夜


 (*)印は主宰選と重なった。風土性の豊かな作品が多く、また、市井の優れた俳句愛好家の姿が見えたので、ぜひ小生のブログに紹介記事を書きたくなった。俳句の裾野の広さを教えられた句集であった。


 イチオシの句を鑑賞しよう。


168 削蹄の爪掃き寄せて牧開く

 飼っている馬であろうか、蹄の手入れをしてやる。散らかった爪を奇麗に掃き寄せて、牧開きに備える。東北にやってくる遅い春を待ち望んでいる心が溢れている。好きな句であった。

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