吹野さんは「野の会」「鷗座」を経て現在「ぶるうまりん」(山田千里代表)の同人。その第三句集で2012年からの11年間の作品を収めた。2023年6月23日、ぶるうまりん叢書。新書版大で、スリムで、余分なものの一切ない装幀である。しかし、俳句表現の要件はキチンとそろっている。跋は山田千里さん。
自選句の表示も帯もない。実にスッキリしている。
小生の感銘句は、左の通り。読みはじめは、作者の確かな技術を感じるものの、正直、驚きが少なかった。だが、読み進むうちに、だんだん面白さに引き込まれた。
ただごと的報告句のようでいて、なかなか味がある。哀しい場面である筈が、妙に明るい。表現にメリハリがあり、選んだ言葉にエスプリがある。川柳をひょいと避けた作品も、なかかな見過ごせない味がある。もちろん無季句も。
まあ、作品を見て戴こう。
021 荒菰より日の差し込める冬牡丹
028 公開の処刑だそうよ冬の蠅
035 野の錆びし自転車のありたんぽぽ葬
038 筍の皮は獣の肌理をして
044 貧とも贅とも新じゃがのほかほか
050 マシュマロ的シャガールの浮遊感
056 他人の葬改札口で待合わす
059 言ってはならず雛壇の後ろ絶壁
064 祭足袋汚れるまでは浮足で
066 鶏頭や答えは二つ三つあってよし
067 万歳はしない案山子の両手かな
074 梅二輪三輪あとわっと
076 口車に乗ろうよ春の渚まで
078 壺に骨余ってしまう梅日和
084 たくさんの檸檬の中の一個買う
102 猫の恋鬼哭くときもこのように
104 生き様の涼しさ熱い骨拾う
123 栗の毬過剰防衛ではないか
124 冬うらら詐欺電話でもよい来ぬか
128 実のなる木と思えば楽し植木市
たぶん、このような装丁の句集なら、多くの人々がもっと手軽に出せるのではなかろうかと、小生は好意的に見ている。
一句一句は解説が要らないであろう。平易である。だが平凡では無い。イチオシを挙げれば次の句であろう。
056 他人の葬改札口で待合わす
無季句で川柳的だが、他の句を見ると、そういう作家でないことは確か。俳句に「情」を持ち込まない、平然としたニヒルさ(この点は078の句に通底する)。日常を淡々と描いている。ここでは、駅の改札口で会葬帰りの親友か誰かと待ち合わせているのであろう。葬の日だというのに、むしろこのあとに期待を思っているのかも知れない。
面白い句集を読ませて戴きました。有難う御座いました。
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