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坂本宮尾編『杉田久女全句集』(つづき)




 坂本宮尾編『杉田久女全句集』の紹介文は先のブログ(12月12日版)で紹介した通りだが、今回はその「つづき」として、補遺Ⅰ,補遺Ⅱの久女の全句を読み、小生の好きな句を拾ってみたので紹介したい。著者坂本の労に感謝しながら読んで行った。

 

 編者坂本宮尾がもっともエネルギーを注いだ部分は、おそらくこの全句集の補遺Ⅰと補遺Ⅱであろう。

 補遺Ⅰの成り立ちを纏めておこう。昭和27年版の『杉田久女句集』を編年体に組み直し、未収録の244句を収録したものが角川書店から出されている(昭和44年)。さらに昭和59年には、「俳句」の臨時増刊として『杉田久女読本』が出され、さらに平成元年に立風書房から『杉田久女全集』が598句を拡充されて出版された。今回の坂本宮尾編の『杉田久女全集』の補遺Ⅰはこの立風書房版を底本としている。

 補遺Ⅱは、その後に見つかった句を纏めたものであリ、大部分は、平成15年に私家本として出された『最後の久女 杉田久女影印資料集成』(石昌子編)に依っている。さらに、昭和15年に石昌子夫妻に久女から贈られていた折本「久女作品集」をも収録した。さらに「花衣」からの未収録句、色紙として残されていた句、「ホトトギス」「電気と文芸」(長谷川零余子編)、「曲水」「玉藻」「藁筆」「木犀」「天の川」に発表された若書きの句、北九州市在住の増田連の「数の子」「無花果」、久女が指導した句会の「白菊句会報」等々も収録している。まさに落穂拾いの作業であった。地元で永年資料を集めてきた増田連、そして北九州市立文学館にも、坂本は大変お世話になったようだ。


補遺Ⅰより


 小生の興味ある久女自身の生活句、子どもを詠った句、仲が悪かったと言われる夫宇内に係わる句を挙げておこう。太字にした句々を読んだだけで、久女と夫と子らの暮らしぶりが想像できる。一方で、197の句のような句もあり、当時、コレラが流行っていて、蚊帳に入っていれば罹患しないで済むと考えていた、とは……あり得るかもしれない。調べて見たら、日本では大正9年の神戸から流行し、3417人が亡くなったらしい。余談だが、スペイン風邪も大正7―9年に大流行している。久女が30歳の頃のことである。


186 蠣飯に灯して夫を待ちにけり

188 福寿草の芽を摘みし子と夫にわびぬ

190 熱の乳呑みに来る児や紅椿

190 我病めば子のもつれ髪春寒し

191 争ひ安くなれる夫婦や花曇り

194 或時は憎む貧あり花曇

197 コレラ流行れば蚊帳つりて喰ふひるげ哉

201 髷重きうなじ伏せ縫ふ春着かな

203 行く春や玉いつぬけし手の指輪

205 夫留守の夕餉早さよ蚊喰鳥

216 冬服や辞令を祀る良教師

216 あたゝかや芝生にまはす客の下駄

216 病める子に太鼓うるさき祭かな

224 俳信のくる日こぬ日やむかご垣

227 夫をまつ料理も冷めぬちゝ虫

227 そこばくの稿料えたりホ句の秋

229 むすびやる娘の春帶は板の如

238 雛愛しわが黒髪を植ゑ奉る


そして虚子に係わる句も幾つかあった。


217 松山に来て師にまみえ夏羽織

240 帰朝翁横顔日やけ笑み給ふ

243 虚子ぎらひかな女嫌ひのひとへ帯


 ほかにも久女作と分かると見過ごせない作品も多い。久女の生活と時代背景が見えてくるのである。


181 蜜柑送るに蒲鉾板をけづり書きし

183 今朝秋や酢の香うせたる櫃の飯

185 夜寒さや棚の隅なる皿小鉢

187 鯛を料るに俎せまき師走かな(坂本の鑑賞にあり)

189 孫に子にひやゝかの舅(ちち)や冴え返る

195 かなしみをつげて悔あり春の暮

195 菜の花に沈む家とぞたづね行く

204 夏山をめがけてはやき燕かな

207 コスモスに俎干して垣低し

209 すべき事皆をへし厨や除夜の鐘

212 新茶すゝめて帯高く去る廊下かな

213 風をいとひて鬢にかしげし日傘哉

214 梧桐や地を乱れ打つ月雫

214 鍋に遠く足袋かわきある炉ぶち哉

215 鶯やうたゝねさめし長まつげ

219 菅葺の簷の厚さよ若楓

221 小萩野や峰を下りくる雲の影

226 釣蘭や深彫りしたる十字架(くるす)の名

232 ふところに入れし文あり春の径

233 並び聴く母耳うとし遠河鹿

233 月涼し四方の水田の歌蛙

234 鴛鴦のゐてひろごる波や月明り

235 雛淋しけれども孤りかざりゐる

238 叱られてねむれぬ夜半の春時雨

238 名草の芽もゆるところに日は濃く

238 岩惣(いわそう)の傘ほしならべ若楓

243 あせやすきにせむらさきの薺うち


補遺Ⅱより


 ここでも久女自身に関する句、夫の句、子どもの句などを拾ってみよう。他の夫婦と変りない景も、疎んじる句もある。その中で子らへの愛情は、世間と変わらぬ母である。


263 戸一枚夫にあけおき月見かな

264  次女四つの光子いつ迄も乳を吸うてゐた

    乳やむる約束に買ふ手まりかな

270 家出妻野菊つみゐて夕帰宅

271 兎糞ほどの賞与もらひし教師妻

277 甘くにて夫も芋をばこのみけり

280 飛び出して父迎ふ子ら落葉道

281 河豚くはず覇気なき夫を疎みけり

309 櫨の実はおちず日本の久女われ

310 枇杷をくふ心貧苦にそまざりき

315 カーネーションの弁財天は久女かな

316 良縁もありて賑はし菊の花

318 旅の子に虫なき栗をえり送る

327 夏帯の小くかろしまだ老いず

330 菊つくる心ゆたかにわれ老いず


 菊枕の句もあった。虚子への思いが切ないほどである。


300 縫ひ上げて菊の枕のかをるなり


 ほか、見捨て難い作品が沢山収集されているので掲げておこう。


250 手負ひ蛾の鱗粉まいて猛りけり

251 蝙蝠に天渺渺と澄みにけり

253 葛水や上目づかひす母なき子

256 女の手ひいて僧酔ふ桜かな

258 鴨なくやすすきの霜に月白し

260 海鳴をきゝつゝ蝶のねむる草

261 いてふわれに親しみうすくそびえたり

283 手袋の左手ばかりのこるかな

285 ねずみ来て餅ひく音としれど読む

285 春衣かけて紅紫はなやぐ灯かげかな

291 帰省して姉妹喧嘩も賑かに

313 霧雨になつめ花さく故郷かな

325 大菊のビナスは白く汚れなき

327 美しき女とよばれ藍ゆかた

332 雑草の茂にまかせ早稲不作


 著者坂本は、久女句を一つ残らず拾い上げようと努力して下さった。久女ファンの一人として深謝している。



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