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大島英昭句集『人参の花』

更新日:2023年7月24日




 大島さんは俳歴20年の人。結社「やぶれ傘」で大崎紀夫主宰の指導を受けてきた。日本俳人クラブ賞を貰っている。その第三句集で、2023年6月30日、(株)ウエップ発行。


 自選十句は次の通り。


  斑鳩の塔が見えだす秋ざくら

  しをり紐のたくるページ花疲れ

  冬の日がブロック塀の穴を抜け

  木漏れ日をすこし外れて龍の髭

  小蟻這ふ人工芝のうすみどり

  ほのぐらき夏越の雨となりにけり

  シーソーにをさなが二人鳥帰る

  捕虫網振つてお別れ雲白し

  道濡らすさきをととひの雪の水

  かいつぶり潜ると思ひをればすぐ


 小生の選んだ句は次の通り。


027 面舵の航跡のこる秋の海

028 冬萌は雨後のあをさとなりにけり

031 ごちやごちやと白鳥がゐて人がゐて

032 時間までバスは動かず合歓の花

035 威し銃撃たれたやうな気になつて

045 ブランコが空いて砂場に五六人

057 冬の日がブロック塀の穴を抜け(*)

061 靴底に春雨が滲み猫が濡れ

071 青柿を蹴れば鴉の羽根がある

077 秋しぐれ点けつぱなしのウインカー

093 夏立てり昨日のままのショベルカー

098 花ひとつ付いて売らるるトマト苗

102 目を離すとたんに消ゆる夏ひばり

104 自転車が門をはみ出てゐる炎暑

110 止みさうになつて尾を引く蝉の声

111 団栗の落ちたばかりの薄みどり

126 水栓のホースつけたるままに凍て

128 ゴミ出しの男がふたり春近し

132 工場の裏に表にさくら咲く

138 五月雨を馬穴の水に見てゐたる イチオシ

157 窓開けて見るだけにする春の雪

165 先つぽに花つけたままもう胡瓜

169 パーマ屋の中が見えだす秋の暮

171 彼岸花昼のチャイムに犬が吠え

173 反り橋の真ん中あたりうそ寒し

176 包丁を持つて出てくる冬菜畑


 読み初めのしばらくは、退屈な句が並んでいるように感じた。それが、読み進んで行くうちに、なにか不思議な面白さを感じるようになり、その虜になって行った。普段、屈折が多く、言葉と言葉が軋んで、読者を驚かすか、あるいは、句の奥に深い意味を想起させるような作品ばかりを読んでいるので、大島俳句の味を賞味するのに、正直、頭の切り替えが必要であった。

 いわゆる「ただごと俳句」の面白さを、この句集『人参の花』で思い出させてくれた。断っておくが「ただごと」は俳句の大切な要素であると思っている。だから、私からの「誉め言葉」なのです。和歌・短歌にも歴史的に「ただごと」がモチーフであった。いまもその系列は生きている。


 一句一句の説明は要らないであろう。平明である。見たもの、見たこと、それらをそのまま書いている。そのような単純な作業で、名句が出来上がる可能性は、実は、大きくはないのだが、中庸の佳句が続々と生まれることはある。いや、中庸を確実に連綿と続けることは、大変な力が要る。それが一大特徴となったのが句集『人参の花』と言えよう。


 小生のイチオシは、次の句であった。


138 五月雨を馬穴の水に見てゐたる 

 バケツに落ちる五月雨の小さな数々の連続する水輪を、ぼおっと見ている。水輪が広がって大きくならないうちに他の水輪に合体し、消えてゆく。と、また雨粒が落ちて来て、同じことが延々と繰り返される。読者は、何の隠喩や寓話も考えないで、書いてあることだけを「読む」。まさに「ただごと」俳句の宜しさなのである。深読みはしない。せいぜい、作者のこの脱力感を、読者が共有できれば、それが俳句なのだろう。作者も読者も、そこに至福を感ずるのである。


 面白い句集に出会った。多謝です。

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