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大崎紀夫句集『麦藁帽』






 大崎さんは「俳句朝日」の創刊編集長をつとめ、現在は「WEP俳句通信」編集長。2001年からは結社誌「やぶれ傘」創刊主宰。同人誌「棒」同人。この句集は第十一句集であろうか。その他、釣の本、旅の本、詩集、写真集など著作は極めて多い。東大仏文科卒。


 自選句は次の12句。


  川に亀鳴き亀ばかり釣れてくる

  板の間の方へ蠅虎は跳び

  舳倉島まできて蚋に刺されけり

  ダンサーが汗拭きながら立つてゐる

  つくつくし鳴くのはかなり向かうの木

  かさかさと暮るるたうもろこし畑

  赤まんま下に砂利とか小石とか

  波ざばとくるとき雀蛤に

  桑の実がくろぐろ山に日が沈む

  菊芋の群れ咲く方へはすかひに

  綿虫をつかみゆつくり手がもどる

  ヒメムカシヨモギは吹かれつつ枯れて


 実に平明で、読んで行くうちに、作者への信頼感が増してゆく。俳句に「詩的な虚」を書くことがよくあるが、この作者は、嘱目の実の景を素直に描く。その典型が帯にある句、

  春昼の坂をあるいてくだる鳩

である。現代の京極杞陽のようだ。


小生が好ましく思った句は次の通り。


030 うららけし受胎告知をされし顔

 イタリア旅行の作品の一つなので、フィレンツエの近くにあるフィエーゾレの受胎告知の絵であろう。受胎告知の絵は幾つもあって、告知を受けたマリアの表情がそれぞれ違う。中には「うららけし」ではないのもあって、興味が尽きない。大崎さんの作品にしては意味深長な作。


042 河骨のまはり明るく暮れにけり

 暮れ泥む時間帯だが、河骨のまわりはまだ明るく残っている。山影なのか、樹木に囲まれている沼なのか、「明るく暮にけり」が絶妙な描写。


131 春昼の坂を歩いてくだる鳩

 この句集の帯に抽かれている句。飛ばないで、歩いている鳩を句材にした。とにかく、大崎さんはなんでも句材にしてしまう。そこにとぼけた味がある。


144 釣り宿の魚拓に蠅がとまりゐる

 これもそうだ。普通なら「魚拓」そのものを描写するのに、「蠅」が主題なのだ。かるくはぐらかされた感覚が面白い。


159   双子の孫・勇吾と恵吾

    サングラスかけてぱたぱた這ひまはり

 多くの句集では、前書きが邪魔をするケースがままあるのだが、この句は、前書きが手柄である。もちろん「双子の孫」だけでも良いのだが、名前からして元気そうなお孫さんだ。もう一つ、「孫・匠己」の前書きで〈159 夏の昼砂場の砂にまみれゐる〉があるが、こちらは名前からして、芸術指向のお孫さんかもしれない。


183 ポップ摘む日は静かなる最上川

 ビールの香りのためのホップが季語となっており、かつ、「ポップ」とも呼ばれていることを、この句から知った。北海道育ちの小生には懐かしい作物である。今は価格の点で、輸入物が多いと聞いているが、最上川流域でも栽培されているのだろう。ホップの俳句を初めて知ったうれしさで戴いた。


197 鳶鳴いて水落とす音そこかしこ

 稲が実る頃、田の水を落とす音がそこここから聞こえる。実りの秋の音なのであろう。空には鳶が輪を書いている。平和な日本の秋の典型。


209 涸川を歩くからすがかなりゐる

 この句の「かなりゐる」という言い方が成功していると思って感心し、戴いた。なかなかこのような大雑把な、それでいて成功している表現を思いつかない。俳諧の味がある。


 ほかに興味を持った作品を挙げておきます。


050 かはほりの空の東に星が出て

059 打ち水をして打ち水の端に立ち

063 海鳴りに近くたうもろこしの花

094 魴鮄の顔が糶られてゐるかとも

099 冬がすみ島の向かうに島の影

136 犬がつと立ちあがり見るしやぼんだま

140 椎にほふピエロは上を向きしまま

165 日盛りの坂をくだつてそして駅

166 虎尾草に夜風そろそろ吹くころと

172 ちらちらと泳ぐ目高の目が見える

175 うみうしを棒でつついてゐる炎暑

176 干草に日暮の風のやみにけり

180 山かげの近づいてゐる崩れ梁

196 うろこ雲潮目を越える船の水脈


 大崎さん、有難う御座いました。

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