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小川楓子句集『ことり』




 小川楓子さんは2008年から「海程」に参加し金子兜太主宰に師事、2010年には山西雅子の「舞」創刊時に入会。海程新人賞、舞賞など受賞。『超新撰21』にも参加。若手のホープである。この句集、表紙は明るく落ち着いた茶系の無地に近いもの。それだけに自己主張を抑えた印象がある(内容は独自色と新鮮味に富んでいる)。2022年5月20日、「港の人」発行。

 あとがきで阿部完市に触れているが、彼のリズム感に通ずるものがある。


 小生の感銘句は次の通り。


006 清明に生れてみどりの踵持つ

007 豆の花向かうで会はうロシナンテ

012 サンドレスこどもひらひら泣きはじめ

015 かなしみに芯あるゆふべ鶴来るよ

030 初氷ピアス忘れし耳にふれ

041 秋暑しコントラバスがやたら元気

045 うんまたねちよつとかすれて白息に

066 噴水にしてもあなたはスローリー

069 夕涼のくきくきとゆく一輪車

071 満月のバルのひとりがかうばしい

071 水澄むや一駅を過ぎたあなたは

080 木のボタン貝にとりかへ夏休

081 下絵のがうまいね沢蟹よく来たね

093 水鳥のまへでゆで卵を剥いて

099 猫の子も小型車も似合ふ町だね

106 ドライヤーかるく大急ぎだ水仙

113 木瓜の実に枝のめりこむ小暑かな

117 呼鈴や牧師の妻の日焼して

119 鵙日和黒いエプロンくるつと巻く

126 朝寝して夢のにはかに晴れて来し

129 うれしいとちよつとみどりだ夏シャツ

144 みみず鳴くハネムーンならいいけど

151 配達のバーコードぴつ青葉して

151 下山してからのトンカツ麦の秋

154 けふも気温はサマードレスのレモン揺れ

160 スカートにこぼす夜寒のランプの灯


 一読して定型を崩した句が多いが、リズムは阿部完市を思わせ、流れが良い。破調にするとき、普通は上五を六音、七音にするのだが、小川の場合は、下五を四音にしたりしている。それでいて、音数は十七音を守るというように、如何にも海程調である。

 特にアベカン風だと感じたのは次のような句である。

092 太鼓ずむずむメタセコイアも冬木

092 鴨眠る風はゆるんでお嬢さん

154 けふも気温はサマードレスのレモン揺れ

 意味を追うよりも、流れるようなリズムとイメージの繋がりを楽しむべき作品である。


 小生の感銘句から、いくつかを鑑賞しよう。


007 豆の花向かうで会はうロシナンテ

 ここでロシナンテが出てくる自由さ、とても真似できない。読者の感性を信じている書き方である。そしてこのことは彼女の作品に一貫して流れている。


012 サンドレスこどもひらひら泣きはじめ

 これもアベカン調。読者は、まず明るい色調のサンドレスを思い浮かべる。すぐに「こども」が出て来て、ああそうか子供が来ているんだと思う。ドレスが風にひらひら揺れている、涼しげである。ところがその子が「泣きはじめ」るのである。迷子だろうか? お母さんに叱られたのだろうか? 軽い想像が膨らむ。


030 初氷ピアス忘れし耳にふれ

 この身体感覚はよく分かる。ピアスをし忘れた耳の何となく物足りなさ。「初氷」が効いている。ピアスを忘れたと思って耳に触るのではなくて、耳に触って「忘れた」と気が付き、無聊感が湧いてくるのであろうか。


071 水澄むや一駅を過ぎたあなたは

 下句が四音である。しかし全体でj十七音。このタイプの破調が多い。しかし、違和感はなく、心地よい。


099 猫の子も小型車も似合ふ町だね

 意味を追いかけると分からなくなる。だが軽い口語調ゆえ、「どんな町なんだろうか」などと、あまり理屈で理解しようとしないで「そう言う町もあるんだろう」と妙に納得する。

これも下四音で全体は十七音。


129 うれしいとちよつとみどりだ夏シャツ

 これも「なぜ緑なんだろう」と詮索しないうちに「夏シャツ」の涼しさに展開していく。

「ちよつとみどりだ夏のシャツ」とすれば十七音の定型なのだが、それを壊して句またがり十六音にしている。それで小川風の俳句が出来てくる。


144 みみず鳴くハネムーンならいいけど

 下四音の「いいけど」を「いいけれど」したくなる。「れ」がない十六音の破調なのだが、不思議な魅力がある。真似したいけど、なかなか素直にこうはできない。


151 配達のバーコードぴつ青葉して

 「ぴつ」にはまいった。ほんとうに素直に素朴に「ぴつ」が出てくるのである。脱帽である。


 実に軽快な俳句群に出会って、気分爽快である。多謝。


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