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小池義人句集『星空保護区』




 小池さんは俳句結社「山河」(前代表は故松井国央氏、現代表は山本敏倖氏)の主要同人で、2015年に山河賞を受賞している。その第二句集で、令和五年十月一日、山河俳句会の発行である。帯には「俳句は私にとって生きた証しであり、人生のある時期の記録である」とある。つまり、この句集の一句一句はみな小池さんの「私の眼」を通しての作である。


 自選10句は次の通り。


  曲がってることが嬉しい春の川

  三月の駅の泡立つ時計塔

  沖縄忌雨水の溜まる滑走路

  落書きがしたい衝動油照り

  旱梅雨介護ベッドのギーと鳴る

  秋夕焼傾きながら電車来る

  雪蛍宇宙は見えるところまで

  寒に入る蛇口ひねれば太き水

  初島の上に大島大旦

  バンクシーのねずみが齧る鏡餅


 小生の感銘句は次の通り。


004 曲がってることが嬉しい春の川(*)

007 賞罰のなんにもなくて日向ぼこ

027 付箋紙の粘着力のない雪解

032 菜の花を一輪挿して禁足す

032 花万朶馬に耳打ちしてゲート

046 草蜉蝣みんなどこかへ行く途中

057 すれ違う香水一乗寺下り松

063 上る蟻下る蟻居てプラタナス

088 雨蛙今いる場所がわからない

090  松井国央師の死

    風鈴の鳴らずタクトの止まりけり

091  高野公一氏の死

    夏雲雀残るは風の音ばかり

095 鰯雲ズーラシア行きバスに乗る

096 遠くまできたので帰る櫟の実

096 秋深しオンザロックの解ける音

101 カーナビの地図にない道葛垂るる

101 薬飲むためにもの食う豊の秋

116 割り箸がきれいに割れて新豆腐

139 秋夕焼傾きながら電車来る(*)

151 空砲の須走口や冬ざるる

153 白鳥来音声一部変えてます

159 うしろからスマホ覗かる雪女

163 寒桜今日も元気に通院す

167 コウキチはもう走れませぬとろろ汁

173 取扱注意のシール花八つ手

178 大根干す妻はシャドーボクシング

178 トンネルの途切れて冬の日本海

179 木枯らしや帰りを急ぐ郵便車

193 足元に福袋置き試着室

201 土竜打つ犬に右利き左利き


 特に気に入った数句を鑑賞しよう。


004 曲がってることが嬉しい春の川(*)

 この句集の冒頭の句で自選とも重なった。春の小川は日の光を受けて明るく流れている。その曲がり具合がいい。田舎の景に違いない。都会の川は改修され、コンクリートの護岸が築かれ、みな真っ直ぐに流れている。そのせいで螢も棲まなくなった。「曲がっていることが嬉しい」とはよく言えた。


063 上る蟻下る蟻居てプラタナス

 この景は私の句にもあって懐かしく思えた。私の場合は百日紅の幹で〈上る蟻ほぼ同数の下る蟻〉であった。


101 薬飲むためにもの食う豊の秋

 長寿社会となった現代。薬を服用するお年寄りが増えた。食後は薬の時間。アイロニーがこの句の手柄かと・・・。


163 寒桜今日も元気に通院す

 101の句に通底する。元気老人。病院がおしゃべりや情報交換のサロンだったりする。見方に依れば幸せな日本である。


167 コウキチはもう走れませぬとろろ汁

 円谷幸吉へのオマージュ。遺書にはたしか「父上様 母上様 三日とろろ美味しゅうございました」とあった。


179 木枯らしや帰りを急ぐ郵便車

 この句にもアイロニーを感じる。土日休配となり、不便この上ない。しかし、郵便局員にとっては大切な土日。この句は金曜日だろか、配達を終えた郵便車がいそいそと局へ帰って行く。そして家には温かい団欒があるのであろう。昔、こんな句があった。〈賀状完配井戸から生きた水を飲む 磯貝碧蹄館〉。世の中は随分と変わったものだ。

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