兜太現代俳句新人賞を受賞した小田島さんの第一句集。賞の副賞として協会からの一部助成を受けて、該句集を出版した。誠にお目出たい。小田島氏は1973年仙台生まれで、宮城県の俳句賞も戴いている。句集の序文は「小熊座」の高野ムツオ主宰。栞は、新人賞の選考委員であった小林恭二と穂村弘の両氏。期せずして三方とも次の句が推敲されてこの句集に入れられたことに触れている。一文字の重さを知らされた思いである。
原句(新人賞受賞時) 芋虫にも咆哮といふ姿あり
推敲後(該句集) 芋虫に咆哮といふ姿あり
小生の感銘句は次の通り。実は、小生は「現代俳句」に小田島氏の受賞時の作品の紹介記事を書いたことがあり、いくつかの作品を思い出しながら、選ばせて戴いた。
015 荒東風に斧研がれ旅立つは今
017 黄水仙こゑ嗄るるまで語り継ぐ
018 みなかみに逝きし獣の骨芽吹く
023 帆柱立つ夜桜のざわめくところ
035 舞踏の素足花冠を海へ投ぐ
039 爆心地のひぐらしに目覚めてひとり
040 早暁の孕馬の背小鳥来る
041 芋虫に咆哮といふ姿あり
043 倒木はゆつくりと朽ち浮寢鳥
044 斜めがけの鞄に禁書大枯野
045 白鳥は悲恋を咽に詰まらせて
048 星々の位置知り尽くし熊眠る
063 三つ目の目の開きたる昼寝覚
068 流星の一つ投函され届く
084 春服は潮風胸に受くるため
094 掌のかの螢火の火傷あと
102 舌先のピアス冷たく雨の街
118 風船を手ばなせばすべてが斜め
118 遠足のひとりは誰も知らない子
142 春風や地球は海をみなぎらせ
152 涼しさや双子のための月ふたつ
受賞時に小生が「現代俳句」に書いた紹介文から、一部取り出してみる。
(応募50句の)冒頭の句は、
春風や地球は海をみなぎらせ
であり、好感の持てる大景の一句である。どちらかというと伝統的な落ち着きのある句のように響く。これを応募句群の第一句目に置いたことは、大きな意味があると思うのだが、二句目ががらりと変わる。
亡命の蝶うみいろの翅ひらき
「海」繋がりではあるものの「亡命の蝶」とは何だろう。蝶の中には、北米大陸から南米まで飛ぶものもいるようだ。海の上で青く染まるのかも知れない。どこかの政情不安定な国からの蝶だろうか。いかにも現代俳句的である。三句目は次の句である。
蛤の開けば見ゆる焼け野原
「蛤」がしっかりした春の季語だから「焼け野原」は季語の「野焼き」ではなく、不本意に焼けてしまった野原のことである。二句目、三句目ともに軽い謎を含んでおり、鑑賞には周到にあたらねばならないと気づかされる。
さて、今回改めて小田島作品を読ませて戴き、上に記載したように沢山の「好きな句」にお目にかかった。中から、小生の好きな句をひとつだけ挙げさせて戴こう。
048 星々の位置知り尽くし熊眠る
秋櫻子の〈高嶺星蚕飼の村は寝しづまり〉を思い出す。この句は蚕も人も寝静まっている。小田島句は熊が眠静まっている。共通するものは「星」である。熊は本能的に自分の位置情報を星から得ているのかも知れない。脳裏にはいくつもの星が明確に刻まれている。眠っていてもそれは変わらない。大きな景と生きものの対比が見事だと感じ入った。
有難う御座いました。約束された将来に向かってどんどん進んで戴きたい。
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