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山口昭男句集『礫』




 山口さんは「青」(波多野爽波主宰)や「ゆう」(田中裕明主宰)を経て「秋草」の創刊主宰であられる。平成29年には読売文学賞を貰っている。その第四句集で、ふらんす堂、2023年6月21日発行。


 自選十五句は次の通り。


  置くやうに花びら落とすチューリップ

  夏の月ロールキャベツに白き帯

  炬燵より短き返事する男

  赤ん坊のすつぱきにほひ涅槃西風

  はくれんの喜劇の如く散つてをり

  むらがりてものの形の蟻の数

  籐椅子に霧吹のころがつてゐる

  雷のにほひ出したる近江かな

  天高し男をおいてゆく女

  前菜の黒き玉子や秋旱

  ゆつくりと氷の上をこほる水

  ほがらかなマスト一本蓮如の忌

  十二月紙の礫の開き出す

  干柿に食ひ入る縄のかわきかな

  落ちてゐる菊人形の菊の影


 小生の共鳴句は次の通り。


009 となりの子湯婆抱いて現はるる

010 冬の蝶手ぶらたることよかりけり

012 恋の猫ブーツ倒して出てゆきぬ

016 豆咲いて黒一色の貨物船

018 菜の花のみな窮屈に咲いてをり

020 さみだれのみづわのごときをみなごは

030 秋深し味噌屋に味噌の盛りあがり

036 炬燵より短き返事する男(*)

041 赤ん坊のすつぱきにほひ涅槃西風(*)

042 春風やはちきれさうな麩の袋

048 若葉かな栗饅頭の白き餡

053 熟睡とは螢袋の花の中

054 音消して出てゆく母や夏の月

071 音はみな雪解雫の中にあり

078 新緑や御所を出てゆく郵便車

082 十人が一人を待ちぬ月見草

084 摂待やうなじに虫のゐる気配

102 竹馬で飼育係のやつて来る

106 線香の灰立つてゐる椿かな

112 筍にそのまま書いてある値段

123 安心の形でありぬ露の玉

136 ゆつくりと氷の上をこほる水(*)

144 目高より目高の影のよく見ゆる

147 滝壺をしづかに水の出てゆけり

162 十二月紙の礫の開き出す(*)

163 メンソレの蓋の少女や聖夜来る

179 あたたかき水鉄砲の水なりき

180 口論にサイダー持つて加はりぬ

184 洗はれて烏賊の目黒き野分かな

186 秋祭烏が屋根を歩きをり

188 草の実の飛んで鰊が蕎麦の上


 一回性の明るくて軽い句がいっぱいである。まさに爽波や裕明の風味を受け継いでいる。


030 秋深し味噌屋に味噌の盛りあがり

 なんでもないこの風景が俳句になる。「盛り上がり」の描写が利いていると思う。


041 赤ん坊のすつぱきにほひ涅槃西風(*)

 赤ん坊の匂いは、まさに甘酸っぱい。「涅槃西風」をよく持ってこれたものだ。


048 若葉かな栗饅頭の白き餡

 上五の「かな」は難しい。自分では避けてきたが、この句から、試みても良いと教えられた。「白き餡」がいいなあ。


078 新緑や御所を出てゆく郵便車

 色彩の対比と、新旧の対比が重なっていて、面白い。


082 十人が一人を待ちぬ月見草

 そうなんですね。遅刻者は大抵ひとりか一組。「月見草」で軽く収めた。


136 ゆつくりと氷の上をこほる水(*)

 田中裕明にもゆっくりとした時間の経過を詠む句があった。〈京へつくまでに暮れけりあやめぐさ〉〈水遊びする子をながく見てありぬ〉〈春雨の子どもがやむとゆうてやむ〉〈走る人みるみる遠し麦の秋〉などを思い出す。これらに対し、山口句は、きわめて微視的である。


186 秋祭烏が屋根を歩きをり

 爽波の〈鳥の巣に鳥が入ってゆくところ〉を思い出す。ただごと俳句の妙味がある。断っておくが、「ただごと俳句」は俳句の究極の姿かもしれないという褒めことばとして、小生はいつも使っています。


184 洗はれて烏賊の目黒き野分かな

 この句集での、私にとってのイチオシの句です。


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