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岡田恵子句集『ハーブ系』


 


 岡田さんは「山河」(山本敏倖代表・前代表は松井国央さん)の同人で、山河賞などを授与されておられる実力者である。この句集『ハーブ系』(喜怒哀楽書房、2022年2月26日発行)は、彼女の第五句集である。「山河」の重鎮らしく現代性のある作品が並んでいる。若干の批判性を持った句や物の本質を突いた作品があるが、あくまでも詩性を失わないように配慮されているように思えた。


 小生の戴いた作品は次の通り。


008 春浅し港に着けぬ汽笛かな

010 川上のふくらみ始む蛍の夜

012 縛られし遊具に遊ぶ赤蜻蛉

014 理屈から最も遠い大海鼠

021 シクラメン圧倒的な賛成派

036 十二月明日の見える靴を買う

041 台風過笑顔を運ぶボランティア

058 白シャツの天皇陛下と擦れ違う

076 喋らない少女が一人花の雲

078 風と来て風に去りゆく金木犀

080 一切を黙秘しており雛人形

101 一年を一行にする年賀状

123 これ以上牡丹らしくなれぬ夜

131 九条の麻酔が切れる冬の海

136 老人が配る赤飯敬老日

140 梅が香やいつもの道で迷いおり

147 ヨットの帆いつも遠くで輝けり

152 寂聴逝く大根一本使い切る


 特に印象深かった句について、少し書いてみよう。


010 川上のふくらみ始む蛍の夜

 小舟で蛍を観にゆく。だんだん夜が濃くなっていく。暫くはしずかな水音だけが聞こえる。上流が蛍の棲むところと聞いていて、近づくにつれて心ふくらむ……。小生も四万十川で詠んだことがある。〈こころにも水渡らせて螢待つ〉……お粗末でした。


014 理屈から最も遠い大海鼠

 「海鼠」を言い得ている。こうはっきり決めつけられても、読者は違和感を持たない。つくづく「そうだなあ」と思うからである。共感、同感の一句。


021 シクラメン圧倒的な賛成派

 これも前句と同じ。「圧倒的な賛成派」と言われて「シクラメン」を見ると、不思議にそうだなあ、と思わせられる。理屈ではない。感受なのだ。作者の力技。


080 一切を黙秘しており雛人形

 これもその類。時代がかった由緒ある「雛人形」なのであろう。長い年月を経て、記憶の中には何か言いたいこともあったであろう。「一切を黙秘」と言い切った。聞かれても言わないのだ。うまい。最近別のところで、こんな句に御目にかかった。〈謀叛めく五人囃子の雛の壇〉。


123 これ以上牡丹らしくなれぬ夜

 これは考えようによっては意味深長。「牡丹」を「ぼうたん」と読ませる。すると「夜」が俄然艶っぽくなる。小生の誤読かもしれないが……。


152 寂聴逝く大根一本使い切る

 瀬戸内寂聴さんが亡くなってすぐの句会にこの句が出された。小生はその時たまたまこの「山河」の句会にお邪魔していて、この句のタイミングの良さに驚いた。寂聴さんを「大根」に喩えるのは如何なものかと、一瞬は思ったが、彼女の生涯は決して雅な高尚なものではなかったし、一生の長い時間を余すことなく使い、発信し続けた。そして逝った。寂聴さんへの賛歌であると思って、真っ先に戴いたのを覚えている。


 小生のこれからの記憶に残る作品たちでした。有難う御座いました。

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