興味をそそる句集表題につられてすぐに読んだ。軽妙な作品が多く、すらりと読めた。嶌田さんは「深吉野」(深沢暁子主宰)で俳句を始められ、「毬」(河内静魚主宰)の同人でもある。俳句四季新人賞を平成二十六年に受賞している。この句集は第二句集で、令和五年二月十日、文學の森発行。奈良県のお生れであり、二上山が作品に出てくる。何度か山の辺の道を歩いたので、小生には懐かしかった。
自選10句は次の通り。
のどかさや水ぶつかつて水動く
口をきくドライマティーニ夏の月
アサギマダラや木漏れ日の翅をもつ
夏の蝶地上に降りること知らぬ
シャンパーニュワイングラスや耳涼し
八月の空閉ぢ込めてゐる卵
旅人の残ししものや流れ星
鰻屋の灯の消えてゐる秋の暮
葛湯吹く心を野へと放つごと
昼月の動いてゐたり冬の鷺
小生の気に入りの作品は次の通り。
012 春の闇ヴィーナスの唇開くかも
021 水底に魚の影ある涼しさよ
025 金魚田も二上山も暮れのなか
025 麦藁帽遠くに母のこゑしたり
033 てつちりや女のはうがすぐ怒る
041 西行忌風には風のゆくところ
046 よき風のくる母の日の母の椅子
046 花桐のひとを恋はざる高さかな
055 三面鏡開けば小鳥来たりけり
056 渡り鳥湊の町の飾り窓
065 手毬つく明るき音のしてゐたり
082 美しきものこそさびし虫の声
086 凩の生まれしこゑを聞きゐたり
088 セーターの軽さと旅に出てゐたり
095 駅までの緩やかな坂春の雨
097 父も子も合はす歩幅や暖かし
101 涼風のくるテーブルを拭いてをり
113 湖は大きな鏡鳥渡る
126 山笑ふ鳴虫山といふ山も
127 蝶の昼ちよつとそこまでのルージュ
138 こんな日は唐辛子にでもなつてやる
143 蜜柑山下り来て海の立ち上がる
144 がやがやとして大阪の時雨かな
155 春かろしはなまるうどんの花かつを
158 明日香村大字飛鳥匂鳥
159 のどかさや水ぶつかつて水動く(*)
おおむね、落ち着いた情感をもって身の回りを詠んでおられる。悲憤慷慨も境涯句もない。心を開いて読める句々でした。一句だけ鑑賞いたします。
095 駅までの緩やかな坂春の雨
誰でもが詠みそうな、よくある景を平明に詠んだ。雨なのだが「春の雨」で明るく、気分は爽快。緩い上り坂なのでしょうか、健康状態もよく、平気である。「緩やかな」の一語を「春の雨」が助けている。気張らない平静の一句。俳句に無理させていない。
楽しく読ませて戴きました。
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