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川島由紀子句集『アガパンサスの朝』




 川島さんは坪内稔典さんのところで俳句を勉強し、「船団の会」散在後は「窓の会」の常連となる。2010年には滋賀県文学祭文芸出版賞をもらった。その第二句集。

 2024年10月23日、朔出版発行。


 自選15句は次の通り。


  初喧嘩グラスをひとつ割るくらい

  触れてみるロダンの像と草の芽と

  かたくりの咲いて暗がり柔らかく

  磯巾着ひらく弱味をみせながら

  桜咲きそう口内炎できそう

  ジャングルジム虞美人草の明日は明日

  新しい朝の雨音アガパンサス

  雑巾をぎゅぎゅっとしぼる原爆忌

  水遣りのホースさすらう夏の夕

  寄り道はちょっと痛くて金木犀

  梨噛んで雲の手紙を読んでいる

  絶望をくるむセーター湖晴れる

  白鳥が来る日の帽子ありますか

  マフラーを闇に投げれば火の匂い

  口論のふっと蜜柑の匂いする


 小生の共感句は次の通り。(*)印は自選句と重なったもの。


015 たけのこは月の光に濡れたまま

021 朝顔の紺の勇気に水をやる

059 南風森の楽器になりたい日

067 初雪の青さガラスのペンの先

071 白鳥が来る日の帽子ありますか(*)

072 桜咲きそう口内炎できそう(*)

078 寝違えて背筋首筋グラジオラス

084 捨て舟のラスピラズリになる月夜

093 花冷えのアンクレットの鈴の音

101 海の日の大きな足の父といる

109 旅はじめ海の匂いの切符買う

120 南仏の青を一本引いて夏

126 豆ごはん炊いて活断層の上

137 にんじん色の湖の朝焼け足すポトフ

165 桃食べてふわっとからだ浮く感じ

173 寝坊してふあっとわたし春キャベツ


 身体感覚を大切に、感じたこと、思ったことを自由に書いた。まさに稔典さんのグループらしい。

 小生がイチオシに掲げる次の句を賞賛して、お礼に代えよう。


071 白鳥が来る日の帽子ありますか(*)


 冬帽子を買おうと思って、帽子屋へ行った。店員にこう訊いた。どんな答えが返ってきたか、知りたくなる。冬帽子を「白鳥が来る日の帽子」といったことで「詩」になった。この比喩、決して気障っぽくはない。センスのよい会話が続いたことであろう。


 有難う御座いました。

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