工藤さんは北海道生まれで、俳句は「沖」で始められ、「河」で新人賞、「河」賞、「河」銀河賞を取られ、無鑑査同人。「くぢら俳句会」の副主宰であられる。『羽化』は第二句集で2022年7月28日発行。跋文は中尾公彦さん。
自選12句は次の通り。
朧夜のフレスコ画より櫂の音
シャンパンの銀河に昇る絹の泡
喝采のやうに裸木枝をひろぐ
マリーナの五月の風に帆を張れり
光年の一過さくらの一花かな
生も死もこの樹と決めて蝉の羽化
春はあけぼのくぢらの海の七大陸
梅雨深し挿して灯の入るルームキー
墓百基かこむ火の帯曼殊沙華
窓側の大人いちまい銀河まで
心ゆくまでこころを詠めと千代の春
水の譜の楽となりゆく春の川
以上の通り、氏の豊かな美的センスから生まれた作品が多い。
小生の共鳴句は次の通り。(*)印は自選と重なった。
008 白墨を走らせ春のメニュー替ふ
012 コッヘルで珈琲沸かす愛鳥日
035 飛び込みの水一枚へ身はナイフ
049 釦みなあそばせてゐる春コート
058 料峭の本に木綿のブックカバー
062 枝豆の青き湯気ごともてなさる
064 今朝の秋生絹で磨く銀食器
096 薔薇芽立つ襟に小鳥のピンバッジ
124 蟬落ちて地の底にある寂光土
136 目薬をさして菜の花蝶と化す
143 風呂吹の旧知のごとき箸の穴
151 寒波来るコーンスープのマグカップ
154 蔵カフェの三和土に春を惜しみけり
167 窓側の大人いちまい銀河まで(*)
186 戦塵も混じりてゐたる霾ぐもり
多くの佳句の中から、現実感が湧いてくる作品を選ばせて戴いた。ただし、186の「銀河まで」はこの句集にわりに多いメルヘン調の代表として戴いた。
小生としては、生活感のあるリアルな次のような作品にこころ惹かれている。
008 白墨を走らせ春のメニュー替ふ
062 枝豆の青き湯気ごともてなさる
143 風呂吹の旧知のごとき箸の穴
151 寒波来るコーンスープのマグカップ
「白墨」「メニュー」「枝豆」「湯気」「風呂吹き」「箸の穴」「コーンスープ」「マグカップ」のような具体的なモノがけっこう雄弁なのである。
有難う御座いました。
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