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平松うさぎ句集『襲(かさね)』




 平松うさぎさんの第一句集である(朔出版、2022年1月25日発行)。氏は能村研三主宰の「沖」に2009年に入会し、現在、同結社の同人会常任幹事としてご活躍である。

 序文は能村主宰が、跋は森岡正作副主宰が、それぞれ佳句を沢山取り上げて丁寧に書いている。


 自選10句は次の通り。


  秋麗や面の裏には朱のレ点

  釣忍風に翠を加へけり

  角ありて角のやさしき水羊羹

  南南西の風泡立たす花ミモザ

  貝寄風や接がれて壺となる破片

  追鰹して春愁を断ち切りぬ

  空豆の一番端に子供部屋

  時代屋の隅にみづいろ金魚玉

  桔梗や解いてならぬ守札

  父の日の父似のひたひ検温す


 小生が選んだ共鳴句は次の通り。(*)印は自選と重なったもの。


015 深々と点描の街春の雪

016 夏来るとグラスの氷声発す

025 春立ちぬ五弦の琵琶の螺鈿光

027 初恋といふ名の薔薇を接写せり

029 永遠に羽化して涼しガレの玻璃

034 春愁やつまさきで消す煙草の火

035 紙風船へこんだままに母の留守

036 マティーニに沈むオリーブ暮春かな

037 釣忍風に翠を加へけり(*)

053 メロン甘し涙の形の種いくつ

056 菊月やゆるり流るる香けむり

079 春風の少女そのまま印象派

081 夜の雨に濡れてもみたき水中花

089 風の無き夜の秋桜にある憂ひ

096 石庭の箒目ゆるぶ菜種梅雨

101 舞ひきつて女形指先まで涼し

104 十六夜や母の話を父として

106 つつかひ棒釣瓶落しに挿してみる

107 ふゆもみぢ加賀縫箔の能衣装

117 南南西の風泡立たす花ミモザ(*)

124 滝壺に落つるほかなき水であり

130 陽の匂ひ稲刈るごとに深くせり

133 霜月や土偶の美女は狐目で

141 横笛の稚児に麿眉春まつり

143 空豆の一番隅に子供部屋(*)

150 鬼灯や顔見て習ふ鳴らし方

152 歳月の襲にも似て葉鶏頭

156 見返りの阿弥陀の眼施(げんせ)小六月

163 松の芯彦根に井伊の赤備

167 二合半の当ての藁焼き初鰹

172 草原に寝て銀漢の腕の中

178 人参の真中日輪ある如し

180 紙漉くや水の引き出す木の記憶


 多すぎるほどの共鳴句があったのだが、一読して、まず平松さんの語彙の豊富さを印象付けられた。なかなかに味のある珍しい言葉を用いて、句を顕ちあがらせているのである。例を挙げれば、

107 ふゆもみぢ加賀縫箔の能衣装

141 横笛の稚児に麿眉春まつり

156 見返りの阿弥陀の眼施(げんせ)小六月

における「縫箔」「麿眉」「眼施」である。なかなか使いこなせない優雅なあるいは深い意味を持った言葉である。


 次に平松さんの美意識がこの句集の大きな特徴であると感じ入った。その鋭敏さに感銘を覚えた。例を挙げれば、

025 春立ちぬ五弦の琵琶の螺鈿光

では、琵琶に施された螺鈿(貝殻の象嵌を思った)の輝きの美しさ、

029 永遠に羽化して涼しガレの玻璃

では、ガレの硝子の壺に描かれた羽化した虫(蜻蛉や蟷螂を思った)の蠢き、

037 釣忍風に翠を加へけり(*)

では、風が吹くたびに釣忍の緑が揺れる様、

101 舞ひきつて女形指先まで涼し

では、女形(玉三郎を思った)の白い指先の涼しさ、

107 ふゆもみぢ加賀縫箔の能衣装

では、冬紅葉と金色のまばゆいばかりの加賀能衣装、

152 歳月の襲にも似て葉鶏頭

では、「歳月」を伝統的な「襲」の美しさに喩える、などなどである。


 共鳴句について、もう少し書きます。


015 深々と点描の街春の雪

 泰西の名画のようだ。点描といえばスーラを思いだし、雪景色ではモネ、ピサロ、シスレーを思いだす。やはり、私の好きなシスレーであって欲しいような・・・。想像がふくらむ。

036 マティーニに沈むオリーブ暮春かな

 ややとろりとした無色透明なマティーニ。あのカクテルグラスの形状。オリーブの塩味が微妙! 「暮春」もいいですね。

079 春風の少女そのまま印象派

 これは雛罌粟の斜面に日傘の婦人と少女が・・・モネですね、きっと。「春風」なのだが、陽の光が結構眩しく、少女も日傘を差しているのだ。我田引水だが許されたし。

117 南南西の風泡立たす花ミモザ(*)

 早春のイタリアで花ミモザが美しかった思い出があります。もちろん海外でなくても良いのですが、「南南西の風」が妙にリアルで、うまい。

124 滝壺に落つるほかなき水であり

 能村主宰の序文にもあるが、後藤夜半の名句〈滝の上に水現れて落ちにけり〉を思いだす。夜半句よりも少し自我が入っている。

150 鬼灯や顔見て習ふ鳴らし方

 鬼灯の鳴らし方を教えてくれる人の顔を見ながら試みるのである。上目遣いの「顔見て」がうまい。

167 二合半の当ての藁焼き初鰹

 二合半(こなから)が適量なのでしょう。「藁焼きの初鰹」とはなかなかの通。


 実に楽しい句集でした。有難う御座いました。

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