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戸恒東人句集『旗薄』



 「春月」主宰の第十一句集である。表題の「旗薄」(はたすすき)は〈防人の征きしこの道旗薄〉からとられた。東国からの防人たちは筑波山麓の薄の生い茂った道を通って行ったに違いなく、柿本人麻呂の『万葉集』に出典があるようだ。戸恒さんの出身地にかかわる一句である。雙峰書房、2022年7月1日発行。


 自選14句は次の通り。


令(よ)き風のここに和みて梅の寺

夕照のやがて残照春の海

靄深き青水無月の筑波かな

筑麓の雨を弾いて蕎麦の花

女(め)松原往けば音失せ白秋忌

石を割る鏨(たがね)の音や冬旱

ふるさとの駅に春星仰ぎをり

朴の花天井高き坊泊り

雷鳥や這松わたる雲の影

木下闇役行者に角は無く

硫黄臭ただよふ谷や花サビタ

鵙日和真田紐売る旅籠かな

防人の征きしこの道旗薄

裾駆けて峰を呑み込み冬の霧


 小生の感銘句は次の通り。(*)印は自選句と重なった。


013 節忌や雲のしかかる遠筑波

019 榧盤に初手の響きや玉椿

021 春曙うすももいろに富士浮かぶ

024 四方に開く尖塔の窓鳥帰る

032 茉莉花の昼は匂はず人過る

036 離れ海猫飢餓海峡の断崖に

042 ダム放水の水煙の宙黒揚羽

052 上りより下りが怖し萩の磴

055 藁屋根に湯気立つ峽の秋の麻

056 身に入むや出土の骨に鏃痕

058 秋冷や肘でねぢ込む畳針

058 石橋にほどよき反りや水の秋

066 行く秋や閊へを飛ばす間歇泉

072 粋筋と見えたるうなじ初時雨

072 山茶花や一燈で足る地蔵堂

074 障子開け夕日を細く引き込みぬ

080 侘助や籬の低き裏鬼門

109 とりどりの土をおまけに植木市

116 朴の花天井高き坊泊り(*)

140 霧深し臨時停車の無人駅

156 餌台にパンの耳ある小春かな

160 月刊が季刊誌となり冬の蝶


 姿かたちの整った句が並ぶ。戴いた句にはそれぞれぴったりとした措辞が中七に入っている。たとえば、「初手の響き」「うすももいろ」「昼は匂はず」「下りが怖し」「肘でねぢ込む」「ほどよき反り」「閊へを飛ばす」「パンの耳ある」などである。


 とくに心温まる一句に次の句がある。


109 とりどりの土をおまけに植木市

 「土をおまけに」がうれしい。買った植木がうまく根付き、かならず、花や実を楽しめるだろうと思う。心が豊かになる一句。小生のイチオシの句である。


 有難う御座いました。


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