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有田あき子句集『花結び』




 九十五歳になられる有田さんの第一句集である。鳥取にお住まいで、「朴の花」(主宰は長島衣伊子氏)に平成十九年に参加し、二十八年には「朴の花二十周年記念賞」を戴いている。令和五年十二月二十五日、文學の森発行。序文は長島主宰が書かれた。


 自選十句は次の通り。


  伏す草に春の鼓動の伝はりぬ

  万緑や拳にぎりて生まれ出づ

  青梅雨の古書に煙草の匂ひかな

  湧く雲の力は失せぬ夏の果

  美しき事のみ想ひ門火焚く

  背の丸くなりたる影や赤とんぼ

  飾ることなき交はりや草の花

  百年の瘤に冬芽の生きてをり

  手すさびに鶴折る日々や春を待つ

  初空へ余生の希み広がりぬ


 小生の共鳴句は次の通り多きに及んだ。しかも四句が自選句と重なっている。通常は一、二句なので、これは驚きである。


017 鉄柱を打込む響き冴返る

027  夫逝く

    見つめ合ふ他なき別れ鳥曇

052 靴もまた明るき色に更衣

057 万緑や拳にぎりて生まれ出づ(*)

060 青梅雨の古書に煙草の匂ひかな(*)

071 大甕の目高と寡男暮しせる

084 美しき事のみ想ひ門火焚く(*)

085 花梯梧戦の終り告ぐラジオ

088 一人降り一人乗る駅鰯雲

092 足音の消えゆけば又虫時雨

094 花がらを摘めばまつはる秋の蝶

096 紅葉茶屋まだ新しき旅の杖

100 校庭のむかし農地や赤のまま

110 白桔梗折目正しき女将かな

111 ぐづるこゑ消えゆき釣瓶落しかな

113 コスモスや微笑みふかき六地蔵

127 動くとも見えぬ川面や鴨の列

130 裸木の瘤たくましき齢かな

133 ベッド跡残る畳や冬障子

136 ドア開くゆらぎに香る水仙花

138 百年の瘤に冬芽の生きてをり(*)

143 乗ることのなき自転車や年暮るる

144 歩く幅ほどの雪掻き終りたる

147 皿落す音冴えまさる夜の厨

149 一段づつ下りる冷たき手すりかな


 ご高齢の俳人の句集といえば、金原まさ子の『カルナバル』を思いだす。その超現実的、不良娘的発想は百歳を超えてからも続いていた。一方で、この句集『花結び』は良家の子女の俳風である。あくまでも身の回りを丁寧に詠っている。平明で破綻がない。俳句の正道を行く句柄である。繰り返しになるが、就中、四句が自選句と一致したという事実は重い。普段から伝統的というよりも現代俳句的作品を好んできた小生にして、こうなったことを、実は、喜んでいる。

 

 とくに好きな句を挙げておこう。


017 鉄柱を打込む響き冴返る

 工事現場の音が聞こえている。岩盤にまで杭を打ち込む機械音が力強い。地響きも伝わってくる。まるで青年の作のようだ。


096 紅葉茶屋まだ新しき旅の杖

 杖を使い始めたころの句であろう。「紅葉茶屋」までは幾ばくかの距離を歩いたのであろう。「新しき旅の杖」が疲れを感じさせない。


144 歩く幅ほどの雪掻き終りたる

 雪深い地にお住まいである。雪の朝は、自分一人だけが通れるほどの幅に雪を掻く。それでも結構疲れる。しかし「終りたる」で爽快感がある。


 お元気で健吟を続けられることを希っております。

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