村(そん)蛙(え)さんが結社「山河」(山本敏倖代表)の主要メンバーで、2022年に山河賞をうけられたことぐらいしか、この句集からは窺えない。詩や小説をも志している表現者志向の方とお見受けするが、この句集、外見は多くの例に倣わず、極く薄く、質素・簡素である。だが、中身が新鮮。前書きに、「多くの人が句集をもっとカジュアルに出せるといいなあ」と書かれているので、意図が良く分かる。跋は西村麒麟さん。
短編小説も一篇付されている。ここでは俳句のみ紹介しよう。
小生が気に入った句は次の通り。
07 うどん屋の入り口狭し春紫苑
09 隻眼の鵟が背中曼殊沙華
09 秋彼岸檻の外にも子猿ゐて
10 大根がいちばんすきといふをとこ
13 つちふるやあれが大和の瞑る海
13 逢へぬならかはりに光つてよ蛍
15 未亡人ごつこは楽し氷水
16 クリムトの女脱ぎたる蛇の皮
16 遠花火逢はない方がいい男
21 またいつか虹になつたらあへるかな
25 初夢でなぜか義足が燃えちやつて
26 日永だし私と居てよパパゲーノ
28 昭和などなかつたやうに曼殊沙華
29 愛といふモルヒネ捨てる冬隣
32 月以外すべて影絵に変わる森
原則旧かな遣い表記ながら、実に自由闊達なモチーフの作品が並んでいる。作者の思いに読者である私の感性が及ばない句がかなりあるが、何かを感じさせてくれる句集である。その点、現代詩的でもある。
07 うどん屋の入り口狭し春紫苑
いい得て妙である。中に入れば結構広いのだが、入り口は人がすれ違える程度。やや薄暗い中に春紫苑が明るい。俳諧的で現代詩からは遠いのだが、村蛙さんの持ち味の一つかと・・・。
16 クリムトの女脱ぎたる蛇の皮
クリムトの「接吻」などを思い出す。画中の女の身のくねらし方が蛇にも見えてくる。金色の衣装の付け方もゆったりしていて脱げやすい感じではないか。実に自由な発想が羨ましい。
26 日永だし私と居てよパパゲーノ
パパゲーノを知らなかったが、「死にたい気持ちを抱えながら、その人なりの理由や考え方で“死ぬ以外”の選択をしている」という、哲学を選択した人のことのようだ。その苦悩が茶化されたような明るい雰囲気・・・と読んだが、誤読であろうか。
正直言って、一風変わった句柄の作品集である。だが、次のような伝統派的な句もあるので用心用心。
06 掌にぬくもり残る春の雪
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