林さんは、俳歴によれば昭和51年に「沖」(能村研三主宰)に入会、その後20年ほど作句を中断されていたようだが、平成16年に復帰された。それ以前も以後も、ずっと「沖」一筋のようだ。その第二句集。2023年2月23日、ふらんす堂発行。
自選15句は次の通り。
ふらここの子を空へやる手の加減
新涼のキリトリ線に鋏の絵
まばたきは瞬の黙禱冬銀河
鉛筆を削れば木の香雪催ひ
つぶやきをかたちにすれば吾亦紅
水飴の気泡うごかず花曇
まつすぐな煮干はなくて一茶の忌
塩壺の塩のつめたき大暑かな
冬麗のここが真ん中乳母車
発掘の土器に番号雲の峯
二陣来て白鳥の湖うごきだす
初蝶来ガラスで鎧ふ副都心
決断の革手袋は噛んで脱ぐ
背にねむる命の熱し冬銀河
風花や唇といふ熱きもの
小生の感銘句は次の通り多数に及んだ。(*)印は自選句と重なったが、4句あった。かなりの高確率であり、好みが近いのかもしれない。
007 ふらここの子を空へやる手の加減(*)
011 楡の木に吊す黒板夏期講座
024 指置けばくもる鍵盤春の雪
026 校庭にオルガン出され風光る
028 花冷やぷすんと抜ける烏賊の腸(わた)
030 鳥籠に鳥のブランコ春深し
035 夏草や引込み線にタールの香
036 捕虫網新幹線の中を行く
043 爆弾のやうなお握り風光る
059 まつすぐな煮干はなくて一茶の忌(*)
061 鯛焼のかたちに湿り紙袋
075 蜂の巣の一部屋増えて厄日来る
084 電子音聞かぬ一日鮎の宿
096 実梅もぐ次なる梅に目をやりつ
106 二陣来て白鳥の湖うごきだす(*)
109 夏帽子小さき夏帽引き連れて
110 炎天を来し黒髪に火の匂
122 菊人形恋する視線かみ合はず
149 搾乳の牛の眸しづか朝曇
156 蕎麦咲いて信濃は月の大き國
158 鉄棒は独りくる場所冬夕焼
169 昨日とは違ふ風着る更衣
172 川幅はもう海のもの大夕焼
175 つぶやきをかたちにすれば吾亦紅(*)
一読して熟達の作品が多く、身の回りのごく普通の景を面白い俳句に仕立てている。読み進んで行って。違和感がない。社会を嘆く作品や病涯詠、べたべたな家族詠もなかったような気がする。だからだろうか、すいすいと読んで行けて、爽やかな読後感が残った。
有難う御座いました。
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