著者の柏原さんは大正十五年のお生れ。九十七歳におなりだ。「きたごち」の柏原眠雨主宰のご夫人だと、あとがきで知った。句集名の「メーデー」はご主人の誕生日だそうだ。「きたごち」といえば、以前、東日本大震災の句を集めた句集を発刊され、その中に日出子さんの作品もあったことを記憶している。令和四年に「きたごち」は終刊となったが、娘さんが始めた「しろはえ」に参加している。文學の森、令和六年八月十五日発行。
自選十句は次の通り。
たんぽぽの絮の撫でゆく象の足
ほうと開く埴輪の口や鳥帰る
聖堂の庭に大根引きゐたり
大漁旗立つ遠泳の脱衣小屋
スカイツリー朝顔の咲く町工場
鈴虫や和紙人形を折る集ひ
山小屋に残す灯一つ天の川
青年の汗ばむ手より護憲ビラ
運ばれて秋風と乗る救急車
メーデーや老いたる拳握りみる
小生の気に入りの句は次の通り。(*)は自選句と重なった。
009 船着場まで雪掻かれ瑞巌寺
010 海南島で迎ふる新世紀の新年
初売へ貨車より下ろす鶏の籠
020 ほうと開(あ)く埴輪の口や鳥帰る(*)
027 尾を振つて犬の加はる山開
032 猫じやらし外野を守る女の子
054 聖堂の庭に大根引きゐたり(*)
060 ぱたぱたと扇せはしき負将棋
064 住古りし厚き居久根に狐鳴く
094 津波禍のレール外され夏ひばり
099 綿虫やボール探しの子が庭に
101 春耕の鍬に焼印新しき
106 除染済みの札貼る遊具赤のまま
112 真菰の馬仮説住まひに匂ふかな
119 食べ頃のメロンの日付あと二日
126 白抜きの塩の一文字夏暖簾
140 抱き上げて七夕笹の飾りつけ
145 さくらんぼの箱に幼の拍手かな
154 麦笛で応へてをりぬ無口の子
160 若き声の間違ひ電話小正月
163 十二階の新居に飾る武者人形
165 吊り上ぐるピアノに夏の蝶とまる
169 十二階の窓あけておく良夜かな
171 公園に置き忘れある千歳飴
177 メーデーや老いたる拳握りみる(*)
178 ところどころゆがみて揃ふ植田かな
182 柿を干すビルの谷間の平家かな
186 手造りも加へ聖樹の飾り物
好きな句が沢山あったが中からイチオシの句を鑑賞しよう。
165 吊り上ぐるピアノに夏の蝶とまる
この句の前後に〈163 十二階の新居に飾る武者人形〉と〈169 十二階の窓あけておく良夜かな〉があるので、背景が分かる。入居に際し、ピアノも運んでもらったのであろう。クレーンでつり上がってゆくピアノを見ていたら、夏蝶が来て止まった。やや大き目の蝶である。その瞬間をとらえた。別に大それたことを言うのではなく、偶然の嘱目句。この一回性が面白い。
有難う御座いました。
追記 「きたごち」終刊号に次の句があって、気に入ったので、抜き書きしてありました。記録がパソコンにありました。懐かしいので左記に掲げます。
泣きながら吸ふ避難所の蜆汁 柏原眠雨
避難所に回る爪切夕雲雀
避難所に配るあんパン若楓 柏原日出子
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