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柴田獨鬼句集『あかときの夢』

更新日:3月25日



 柴田さんは若くして詩に親しんでおられた。10年ほど前に「らん」(鳴戸奈菜発行人)にて俳句を始め、「港」(大牧広主宰)にも所属。詩人らしく、言葉に敏感な作品を収容している。文庫本の大きさの句集で300句ほど。齋藤愼爾さんの協力で成った句集である。2023年二月二十日、深夜叢書社発行。


 齋藤愼爾選の12句は次の通り。


  あかときの夢偸(ぬす)まるる牡丹かな

  愛日や生きて甘露の日和欲し

  ぽつねんと空席のある余寒かな

  消え残る熾火の夢や寒の暁

  冬の月にんげんといふ病得て

  啓蟄の異界結界覗き見る

  屈原の杖残りたる端午かな

  啓蟄や魑魅魍魎の呱呱静か

  人類のあとに来るもの旱星

  我向けし誰何(すいか)の応(いら)え蚯蚓の死

  初しぐれ眉細きひと背を見せて

  短夜や幸と不幸のはざまにて


 共鳴句は次の通り。


009 ごぶさたの神様ばかり初詣

013 身の丈はこんなものです土筆んぼ

017 隣室の声聞こえくる春の真夜

022 薔薇咲きて薔薇好きの人想ひけり

022 まなうらの人と観てゐる揚花火

029 節分や親しき鬼のなくはなく

034 わが死面(マスク)われは見られず春の夢

049 冬の月にんげんといふ病得て(*)

050 白紙にはもどせぬ頁日記果つ

056 首縊る高さに小さき芽吹きかな

067 立冬やあすを昨日に奪はれて

071 夕霧忌女の家の三面鏡

072 一文字や列を崩さずもの言はず

073 花便り聞きたきことは他のこと

074 どの顔をつけて行かうか春の道

095 八月や永久(とは)に昭和を背負はされ

096 一瞬の殺意滾りて石榴の実

100 新日記はじめ小さな嘘をつき

101 日記にも本音を書けず三鬼の忌

104 文弱を誇りとしたき終戦忌

113 月下美人ひとりふとりと数へたり

116  大塚優一氏の御母堂一〇二歳の天寿を全うす。

母の日や九九では足りぬ母の齢


 やや刺激性に富んだ、私好みの佳句が多かった。それぞれ深い意味性を含んだ句群である。ポケット大の文庫本であることも、小生の先の句集『SMALL ISSUE』がそうであったので、親しみを感じた。しかも出版社を経営している齋藤さんが文庫本サイズを出版したわけだから、意味がある。


 一句だけ鑑賞させて戴きます。


095 八月や永久(とは)に昭和を背負はされ

 つくづくそう思う。敗戦を措いて「昭和」は語れない。八月には原爆もあった。価値観大転換の月である。もう二度とあってはならない昭和二十年八月である。柴田さんはまだ生まれていない。なのに、そう感じるのだ。私は小学一年で、教育勅語は「朕惟ウニ、我ガ皇祖皇宗」まで暗記して終戦となった。


 末尾に齋藤さんも鳴戸さんも体調がすぐれないとのこと。ご回復を願っております。

 有難う御座いました。



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