池本さんは「街」(今井聖主宰)の創刊同人。その前は「寒雷」の同人であった。他に、〈もろてくれぬか濱人のインバネス〉など原田濱人の句が幾つかあるので、むかし、浜松あたりで濱人らと一緒に俳句を楽しんだのであろう。2024年9月20日、角川文化振興財団発行。
自選12句は次の通り。
梅ひらく太平洋に人魚来て
雪踏めばきしと哭きたり関ケ原
深海へ続くこの道辛夷咲く
あづかれる地球の此処を耕しぬ
七反の青田を統べて父立てり
田が植わり村が大きくなりにけり
九歳の素足八月十五日
水が水盛り上げて夏ゆきにけり
忽然とはた必然と曼珠沙華
ゆきあひの空をふるはせ木遣歌
秋風を隈なく乗せて大糸線
生きてあれば生きてあればの冬至かな
008 三千歩辺りで迎ふ初日の出
011 鍬始いつものやうに乾から
013 白障子まづは一姫さづかりぬ
018 堆肥撒き寒の峠の予感あり
021 もろてくれぬか濱人のインバネス
024 つれあひのセーターですとはにかみぬ
035 田に水を引きぬ三月十一日
053 司会者を制し初音を聴きにけり
090 田が植わり村が大きくなりにけり(*)
122 草取に暮れぬ六日も九日も
152 指呼の間に国後はあり霧走る
188 同行二人鯨の見ゆる丘に立つ
195 湯加減を問へば冬星きれいだと
小生のイチオシの句を挙げておこう。
122 草取に暮れぬ六日も九日も
この句には前書きがあった。小生は、いらない、と思った。「長崎・広島に思いを馳せつつ」である。いま作者は、真夏の暑い日に、草取の最中である。原爆の被害者に思いを馳せながら、日常の今に没頭せねばならないことを遺憾に思っているのである。作者のこの複雑な心境に、小生は、現代人の良心を感じた。
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