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池田澄子著『三橋敏雄の百句』




 池田さんの該著、懐かしく、あるいは、こんなことだったのか、との驚きを含めて、興味深く読ませて戴いた。2022年12月1日、ふらんす堂発行。


006 かもめ来よ天金の書をひらくたび

010 労働祭赤旗巻かれ棒赤し

    この句を私は、メーデーが終わった後の景を詠んだ写生句だと思っていた。池田さ  

    んは、昭和11年メーデー禁止通告が出されたことに触れ、警官がいるときは旗を  

    巻いて単なる赤い棒にするんだと、三橋が説明してくれた、とあった。時代認識の 

    差が表れた。納得。

012 むささびや大きくなりし夜の山

    高尾山の句碑。

018 いつせいに柱の燃ゆる都かな

    東京空襲を思うが、読む人によって「移調」果てしなく、平家物語にまでワープす

    る句でもある。超有名な句。

036 昭和衰へ馬の音する夕かな

    「戦後は置き捨てにされた軍馬の蹄の音が耳底にこびりつくこの句から、『眞神』

    は始まる」とある。私の街でも、戦後しばらくは荷馬車が活躍していた。鬼房が

    縄とびの寒暮傷みし馬車通る〉を詠んだのはいつであったろうか。私は池田さん

    のお宅で『眞神』を見せて戴き、感動したものだった。

044 絶滅のかの狼を連れ歩く

    幻の狼を常に連れ歩く姿が、こんなにしっくりと似合う人は俊雄以外に居ないと思

    う、と池田さん。

046 父はひとり麓の水に湯をうめる

    これが湯灌(水に湯を入れて適温にする)だとは、この解説を読むまで知らなかっ

    た(気が付かなかった)。

080 はつなつのひとさしゆびをもちゐんか

    ひらかなばかりの句。印象的。川端康成の『雪国』を池田さん同様、私も思った。

084 顔押し当つる枕の中も銀河かな

088 裏富士は鷗をしらず魂まつり

    飯田龍太には「裏」とは失礼だよね、と敏雄が言っていらしい。私も「裏日本」

    などという言葉は避けている。しかし、「鷗」は言い得ている。

094 桃採の梯子を誰も降りて来ず

    「登って行って降りて来なかったのは、あの新興俳句を志した先輩たち……」と池

    田さんが思う気持ちは分かる。

108 戰爭と畳の上の団扇かな

    句集名『畳の上』には多くの人々が驚いたに違いない。縁語として「畳の上では死

    ねない」を思うからである。「畳」はこのごろ少なくなった。

118 高ぞらの誰もさはらぬ春の枝

    私は俳句初心者に「適当なモノに安易に春とか夏とか付けるな」とよく言うのだ

    が、反省である。「春の枝」がうまい!

120 死に消えてひろごる君や夏の空

    この句が高柳重信への追悼句と知って驚いた。しかも、重信が静脈瘤破裂だったと

    は! もちろん前書きがないので「君」はどこの「君」でもいいのである。

122 戰爭にたかる無数の蠅しづか

    この「蝿」は、私は戦争を商機としてたかる輩だと思っていた。原意は戦死者の屍

    にたかる「蝿」なのであろうが……。

124 あやまちはくりかへします秋の暮

    このアイロニー(あるいは反語)は池田さんの「赤紙」の句に似てやしまいか。

152 家鼠絶えて久しや地上げ屋来

    敏雄が八王子の家を売った代金を信頼していた弟子に持ち逃げされたことがある。

    その時の句であるようだ。それで敏雄は小田原に住むことになったようだ。その持

    ち逃げ犯はある結社に入っていた人で、俳句が上手かったそうだ。私はその人を知 

    らないのだが、実は同じ結社に属していた。この結社には柴田白葉女を撲殺した男

    も獄から投句していたようで、なんとも複雑な思いがある。もちろん結社の主宰  

    (故人)にはまったく責任のない話である。

158 山国の空に山ある山桜

    このリズムは〈一月の川一月の谷の中〉のような滑らかさがあり気に入っている。

160 春風やにはたづみにもある渚

    うまいなあ!

174 石段のはじめは地べた秋祭

    うまいなあ! 吟行で、さっとこんな句ができるんだ。

180 みづから遺る石斧石鏃しだらでん

    私も「しだらでん」にあやからせて戴きました。「刃物にモリブデン敏雄忌にしだ

    らでん」(『SMALL ISSUE』より)。お粗末でした。

182 故人みな齢とどまり除夜の鐘

194 俳諧(へえけへ)は四季に雑(ざふ)さて年新た

    このルビがいいなあ。私もこんな句を作ったことがあります。〈俳諧(へえけえ)は

    天動説よ初雲雀〉これまたお粗末でした。

196 人類憐愍令(じんるいあわれみのれい)あれ天の川

    生類もさることながら人類が喫緊の課題であろう。アイロニーの句。

202 山に金太郎野に金次郎予は昼寝

    「面句会」(私は晩年の高橋龍さんと句会を楽しんでいたことがある)に敏雄が色

    紙を持参し、池田さんに下さった、とある。その後二週間ほどで敏雄は昼寝どころ

    でなく永遠の眠りにつかれ、いまだ昼寝中、と池田さんは書いている。


 敏雄の百句を読むと、改めて懐かしさが蘇ってくる。こんなにも手軽に(軽いなどと表現が粗末で申し訳ありませんが)思い出させてくれる俳句というものの宜しさを思い返している。

 池田さん、ふらんす堂さん、有難う御座いました。




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