河内さんは、「馬酔木」「寒雷」「陸」「炎環」などで俳句を修練され、主に「寒雷」で活動されたようだが、平成十六年、「毬」を立ち上げ、これに集中されているようだ。途中、「俳句界」の編集長をも務めれた。その第七句集で、二〇二三年十一月三十日、朝日新聞メディアプロデュース部制作。
小生の感銘句は次の通り多きに達した。071のところで句のモチーフが一変することを確認戴きたい。
010 近づけば冬木と冬子離れけり
011 ハンドルの遊びのやうな余寒あり
012 支度せぬ小さな旅や犬ふぐり
013 アネモネと口にしてみてなほ好きに
018 晴れてすぐ空が二倍にソーダ水
019 アイスクリーム用なき指の美しき
023 涼しさや細くて長き着物着て
024 一夜二夜箸置ちがふ夏料理
033 竹筆を買へば金沢しぐれけり
038 いつまでも人馴れのせぬ室の花
043 風船のかるさの競ひあつてをり
049 恋の使者スワンボートを押す係
050 少年のころの空欲し夏帽子
053 一枚として重ならぬ青田かな
054 遠くとは日傘の遠くなるところ
059 泳ぎ方ときどき変へてゐる金魚
060 滝といふ水音のすることばかな
065 爽やかや銀座は通りごとの風
069 人だけが鏡を愛し秋の風
071 長女あゆ子緊急入院
言葉では言へぬかなしさ木の葉降る
077 哭きしあと白鳥の首重からむ
078 消灯の後の子おもふ雪催
081 かなしみは硝子の硬さ寒の水
082 春の土踏んで病む子に会ひにゆく
083 病める子の欠伸にほつとしたる春
085 春の雪眺めてゐたり病める子と
085 新型コロナウイルス禍により病院の面談禁止
春暁の朱色の中か病める子は
086 特別に許され面談
生きることまた輝かす囀は
088 春さびし水はコップのかたちして
090 あゆ子逝く
一落花風をつかまへ舞ひ上がる
091 おとうさんと肩に子の声春落葉
094 ああと思ひああと黙する春の中
096 白玉や亡き子と同じ町に住み
100 川霧をのがれし水の流れくる
119 思ひ出す亡き子の仕草鳳仙花
121 海の色なんどもかはる秋の旅
122 草原に出かけて見たくなる檸檬
125 シーソーは一人でできぬ冬あたたか
136 まづ笑ふ春の最初の日曜日
141 なんとなく手足の長き春うれひ
142 子の恋しお玉杓子は尾を振つて
144 雨音のなくて降る雨二輪草
154 夜顔の香のなか酒の深くなる
161 一枚もなしありふれし落葉など
179 蝶翔ちぬ人に小さく愕いて
197 きれいな夏二人でケーキ楽しめば
河内さんは、
071 長女あゆ子緊急入院
言葉では言へぬかなしさ木の葉降る
の句までは、日常の花鳥を詠む日が続いた。そして娘さんを急に亡くされた。その悲しみが、
142 子の恋しお玉杓子は尾を振つて
の句まで続いた。この間の作品を読みながら、小生の目がしらは潤み続けた。いつ元気を取り戻した句に出会えるのかと、そればかりを気にして読み続けた。最後の句、
197 きれいな夏二人でケーキ楽しめば
で、ようやく悲しみが薄らいだのであろうか? そうではないかも知れないが、そう思いたい。子を持つ親にとっては、重い句集でした。
天上での、あゆ子さんの安らかを願っております。
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