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浅川芳直句集『夜景の奥』


 浅川さんは31歳の若手俳人。西山睦さん(「駒草」主宰)の序文では、わずか5歳の時に俳句を始めたというから、英才俳人である。その証拠に、俳句四季の新人賞や芝不器男俳句新人賞を受賞し、2017年には東北にベースを置く「むじな」を創刊し発行人となっている。跋文は渡辺誠一郎さん。帯文は高橋睦郎さん。「この人の鋭さと柔らかさの兼ね合いは絶妙。清新と風格の共存と言い換えてもよい」とある。2023年12月2日、東京四季出版発行。


 小生の気に入りの句は先の通り。


014  剣道大会

    一瞬の面に短き夏終る

018 約束はいつも待つ側春隣

020 給食の麦飯の皿かく軽し

025 冷房車出てよみがへる雨の音

043 水平線もりあがり鳥雲に入る

043 春昼の酔うてもムツオにはなれぬ

054 郵便受ぽんと音して大旦

066 秋の雨待たせる人の見えてきて

068 あり余る日向としての冬田かな

073 少年の葱を一本さすリュック

083 葉擦れとも水の音とも夜の新樹

088 噴水へさし出す坊主頭かな

101 甲冑の髭撥ねてゐる御慶かな

102 雛祭上着薄手にしてゆかむ

113 夕影に虹の匂ひの残りけり

114 蛍火の水輪の芯へ還りけり

129 去年の雪ざつとこぼして神樹あり

133 遅き日や後部座席の津軽弁

141 新幹線無月の山へなだれこむ

153  安里琉太さん結婚披露宴 那覇

    スコールの海より白く鴎二羽


 一度読んで、浅川俳句は完成しているというのが感想である。特に好きな句を挙げてみよう。


014  剣道大会

    一瞬の面に短き夏終る

 見事な一瞬を切りとった。友岡氏郷の〈跳箱の突き手一瞬冬が来る〉を思い出す。友岡さんはこの句があまり有名になってしまったので、私にはこの一句しかないのか、との悩みを私に話してくれたことがある。実際はそんなことはなく、沢山の佳句を詠んで、蛇笏賞に到達した。その背景には阪神淡路大震災があった。浅川のこの一句もそんな期待を抱かせる。


018 約束はいつも待つ側春隣

066 秋の雨待たせる人の見えてきて

 待ち合わせにはたいてい男が先で女があとに来る。良くある状況を「春隣」と「秋の雨」でうまく纏めた。上手い句。


043 春昼の酔うてもムツオにはなれぬ

 寒風沢での吟行句。私もこの吟行に加わりたかったのだが、用事があって帰京してしまった。残念である。「酔うても」と「ムツオ」の組合わせが抜群に上手い。達者な「芸」まで感じさせる。


088 噴水へさし出す坊主頭かな

 この一回性がいい。何でもない景が、読み手に「あるある」感を呼び込ませる。個人的な好みだが、このころ「普遍性」よりも「一回性」が文学のモチーフになりそうだと感じている。小生のイチオシの句と言っても良いか。そう言えば〈073 少年の葱を一本さすリュック〉や〈133 遅き日や後部座席の津軽弁〉も一回性の句である。


129 去年の雪ざつとこぼして神樹あり

 この句も一回性といえば言えるが、季節から、場所から、状況までを数少ない言葉で表出してくれている。


 つくづく凄い逸材だと思う。うますぎることが気にならないでもない。


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