浦戸さんは「月の匣」(水内慶太主宰)の創刊同人。その第一句集(朔出版。2021年9月1日発行)。
まえがきには水内主宰が浦戸さんの人となりを丁寧に紹介している。あとがきの冒頭に「存分に仕事をやり終えてからの遅い入門」とあり、小生と全く同じだと、気を引かれた。小生も猛烈な企業戦士だったと自分で思うのだが、「存分に仕事をやり終えた」感じがない。むしろ慙愧の多い半生だった。その点、浦戸さんには羨望を感じる。そして、俳句に巡り合ったことが何よりの幸せだと感じるのは、これは私も同様である。
集中、小生の共感した句は次の通りであった。
015 願ふこと少なくなりて初詣
040 星みんな聖樹に降りてしまひけり
056 にべもなく刈られて萩の安らぎぬ
058 紅筆の少しやせたる花薄
061 人鳥の沈思黙考冬に入る
064 賢さを疎まれてをり寒鴉
079 濁点のなくて涼しき古文かな
081 石の意を問うてをるかに川蜻蛉
083 深紅とふ積深き色近松忌
085 美しき嘘を吊りたる聖樹かな
110 父祖の地の過客にしかずサングラス
117 退院も別れのひとつあたたかし
131 籐椅子や夢にも老いのあるやうな
131 気力満つ一滴の香水を着て
136 新蕎麦や八ヶ岳(やつ)の機嫌のよろしき日
169 遺書はまだ書かず笹鳴き聴いてをり
180 車椅子降り秋風に乗り換ふる
ここにはたまたま抽かなかったが、浦戸さんに海外詠が多いのも、小生と同じ。そして老境に十分入ったと感じるのは、
015 願ふこと少なくなりて初詣
131 籐椅子や夢にも老いのあるやうな
169 遺書はまだ書かず笹鳴き聴いてをり
などの句である。小生とほとんど同い年であられる。
一句鑑賞をさせて戴き、第一句集上梓のお祝いにかえさせて戴きます。
131 気力満つ一滴の香水を着て
大事な用件で、あるいは大事な人に会うためか、ご婦人が外出されるとき、TPОに適した香水を選ぶ。それを「着て」と詠った。一つの儀式のようなものであろうが、それによって「気力満つ」のが良い。マンネリの儀式ではない。小生イチオシの句でした。
Komentarze