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熊沢れい子句集『花仙人掌』



 熊沢さんは仙台市の人で、柏原雨民主宰の「きたごち」の重鎮。昭和6年生まれだから、90歳になられる。その第二句集。文學の森、令和四年四月十五日発行。跋は柏原主宰。

 以前、「きたごち」のメンバーが東日本大震災後の数年間の経験を句にしてアンソロジーを出された。小生はそれを読んで、佳句と思われるものを抽き出したことがある。いま、この句集を読みながら、熊沢さんの句もその中にあったことを思い出している。たしか〈032 浜街道の除塩畑に干大根〉がそうであったのではなかろうか。

 

 自選十句は次の通り。


  子規庵に貰ふ十粒の鶏頭蒔く

  実桜や艇庫の壁に津波跡

  不揃ひの秋茄子捥ぎて畑果つ

  ダイヤモンド婚にワインで年送る

  花仙人掌砂漠を走る貨車百輛

  ジーパンの腰ポケットにサングラス

  鈴虫の百を鳴かせて兄の逝く

  イヤリングと補聴器外す紅葉宿

  父逝きし児に文を書く十二月

  二十名の小学校に雪囲ひ


 小生の感銘した作品は次の通り。(*)印は自選句と重なった。


007 旗を出す下駄屋天皇誕生日

009 なまはげの吠え振りあぐる紙の出刃

018 実桜や艇庫の壁に津波跡(*)

031 駅中に売る新米のきりたんぽ

032 浜街道の除塩畑に干大根

055 花仙人掌砂漠を走る貨車百輛(*)

056 鹿ステーキの夕餉のおそき白夜かな

058 合歓咲くや礼拝堂に救急車

073 無人駅に白鵬ビラとシクラメン

084 ジーパンの腰ポケットにサングラス(*)

086 縁側に花火の玉の天日干

086 朝刈りし飼葉にひそむ蝸牛

115 新幹線棚に鈴虫鳴きどほし

116 被災田に傾ぐ鳥居や地虫鳴く

126 裸参り女宮司に祓はるる

168 六地蔵の雨除け屋根に木の実降る

174 うららかや港の見ゆる女坂


 小生にとってのイチオシの句は、柏原主宰も挙げておられるが、次の句であった。

055 花仙人掌砂漠を走る貨車百輛(*)

 この場面が今でも小生の眼奥に残っているからである。場所はアリゾナ。フェニックスやツーソンは大きな町だが、郊外に出ると砂漠(実際は土漠)が広がり、岩がごろごろの斜面にサボテンが生えている。生えているといっても、二、三十メートルの間隔で、高さが二メートル以上。花は咲いていない場合が多い。広大な原野には鉄道が走っていて、めったに遭遇しないが貨物列車が通ることがある。これに行き会うと、通過するまで、私の車は暫く待たされる。遮断機がある訳ではないが・・・。百輛かどうかは数えていないが、半端でなく長い列車なのだ。そんな昔の景をまざまざと思い出している。


009 なまはげの吠え振りあぐる紙の出刃

 この句は、下五の「紙の出刃」が良かった。実際は銀紙を貼った出刃包丁なのだろうが、実にリアルで、なまはげの鬼のようなお面と髪振り乱した姿が見えてきそう。子供の頃は、獅子舞ですら怖かった記憶があるが、なまはげの方が格段に恐ろしい。


056 鹿ステーキの夕餉のおそき白夜かな

 055の句のすぐ後にあるので、これも海外詠であろう。「白夜」とあるから北欧かも知れないが、アメリカでも良い。獣の肉料理を専門にしているレストランがあったりする。しかも、夕食が日本より遅い時間に始まる。特に北欧の夏はそうだ。柔らかく、脂がほとんどないのが鹿肉の特徴。食事を終えて外に出てもまだ明るい。熊沢さんご夫妻の旅の様子を想像しながら、小生も楽しませて戴いた。


 個人的な鑑賞をしたが、お許しください。

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