田島さんは沢木欣一の「風」の同人から、林徹の「雉」創刊同人、超結社「晨」の同人参加などを経て、平成二十年に「雉」の主宰を継承し、俳人協会の要職におられる方である。 該句集は氏の第四句集で、東京四季出版、二〇二四年九月二十日発行。
自選12句は次の通り。
はだれ嶺を統べて白山雲捲けり
湖を揺さぶる比良の荒れじまひ
雉のこゑ一徹にして還らざる
声わろきされどかはゆき烏の子
早苗月加賀の村々水びたし
蟻さんと幼が呼びて抓むなり
パプリカは色の単純明快に
青ふくべ幼ながらにくびれゐし
鶏頭は怺へきれざる赤ならむ
潜りては群れに近づくかいつむり
氷魚みな針先ほどの黒目して
めんどりに玉子もらつて冬籠
小生の共感句は次の通り。(*)印は、自選句と重なったものであり、その数五句はかなり多い部類に入る。
007 遥かなるものへ近江の雉のこゑ
008 蝶々は嬥歌(かがひ)さながら豆の花
014 七五三金魚のやうに童女跳ね
023 雨粒の見えて因幡の遅田植
031 亡きひとへ剪りしと紫苑一抱へ
033 鶏頭は怺へきれざる赤ならむ(*)
045 芍薬のもらふ仏花の余り水
053 大聖堂しはぶき一つ響きけり
062 貝殻の卯波退くとき鳴りゐたる
067 耳立てて馬の黙せる初秋風
076 春の蠅政治面もて打たるるや
076 軍鶏の子の走り止まざる日の永き
087 何やかや倚りかかりをる大枯木
102 次々と潜りて鴨の夕餉どき
109 湖を揺さぶる比良の荒れじまひ(*)
115 明け暮れを牡丹は雨となりにけり
117 蟻さんと幼が呼びて抓むなり(*)
118 青ふくべ幼ながらにくびれゐし(*)
125 尉鶲去つて湖国は大き闇
126 さやけさに誰待つとなく門に立ち
136 ゆく河の流れ絶えずと読始
164 えごの花掃きゐしときも散りゐたる
166 パプリカは色の単純明快に(*)
188 祭の子足に余りて藁草履
193 巣立鳥湖国の空の果てしなき
小生にとって、田島さんは名著『新興俳句の群像「京大俳句」の光と影』の著者であり、評論を書く時に、随分とこの著作のお世話になったものであった。そのせいか、俳句も、やや硬質な社会詠が多いとのかと思っていたが、一読して、全く違う。花鳥諷詠どっぷりとは言わないが、端正な叙景句、叙物句が多い。モチーフや素材を一句に詰め込まず、選ばれた対象のエッセンスだけを丁寧に、端正に叙した写生的な作品が多い。
イチオシの句を挙げて、お礼に代えよう。
164 えごの花掃きゐしときも散りゐたる
テーマは「えごの花」が散るさまだけである。静謐な時間がゆったりと流れている。「えごの花」を何かの象徴のように使って、寓話的な何かを主張するような作品ではない。余計なことを削ぎ去って、ただ、はらはらと「えごの花」が降って来るさまだけがモチーフである。ただし、素十の〈甘草の芽のとびとびのひと並び〉のような、人のいない句ではなく、「えごの花」を掃いている「ひと」がいるのである。
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