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神田ひろみ句集『われを去らず』




 神田さんは、楸邨の「寒雷」で育った才媛。楸邨に係わる俳論を書いて現代俳句協会評論賞を受けている。また「われを去らず」三十句で同協会年度賞を貰っている。

 今回の句集『われを去らず』は第一句集『虹』、第二句集『風船』とその後の作品の集大成で、思いの籠った第三句集である。2024年10月30日、百年書房発行。


 自選句は次の通り。


  あふむきて時淡くなる鰯雲

  炎天を父の手紙の来つつあり

  かなかなの素顔となれば聞こえけり

  希望ふと熱き一個の今川焼

  環(めぐ)り来て疾風怒濤夜の林檎

  巴旦杏五歳のころの山河見ゆ

  違ふ明日来るとミモザは髪に触れ

  指で拭く汗よみじかき晩年来

  梨剥いて水の立体とりだしぬ

  青田原走つてくる子手が翼

  月明の子規の机はΣ(シグマ)かな

  われを去らず三月十一日の水


 小生の感銘句は次の通り。(*)印は自選と重なった。


009 水の音火の音帰省目覚めけり

017 炎天を父の手紙の来つつあり(*)

038 布の端持たせてもらふ雪晒

056 背泳の一かき百合の香がすぎぬ

080 子がふつとわれをはなるる流れ星

083 草螢また弟に生れ来よ

088  能登

    秋の浜ひろふ小石のみな仏

097 楸邨留守胡桃の中に音のして

104 濛濛と国生むやうに初湯かな

112 青田原走つて来る子手が翼(*)

116 ひやひやと陸奥(みちのく)に入るふくらはぎ


 小生のイチオシの句をあげておこう。


056 背泳の一かき百合の香がすぎぬ

 泳ぎの上手な人は、背泳ぎをしながらゆっくり空を眺めることが容易にできるようだ。ほんのひと掻きしたら、百合の香が過ぎて行った。こんなことってあるかなって思う。不思議な感覚的な句。ホテルのプールならあり得るかも。でも、事実かどうかは、実は、どうでもいい。この身体感覚、とくに臭覚が、感覚的な「詩情」を私に与えてくれた。好きな句です。

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