福本弘明句集『梨の木』
- ht-kurib
- 3月25日
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福本さんは「天籟通信」の代表で、現代俳句協会の副会長でもあられる。その第四句集で、句集名「梨の木」は、〈還暦の少年梨の木を植えん〉からとられた。還暦の自分が、実がなるまでに十七年もかかるとされる梨の木を植えたことの意味を自問している。文學の森、令和七年三月十五日発行。
自選十句は次の通り。
絶頂より流れてきたる天の川
大根蒔く世間話をするように
霧の湿原みんな尻尾の先を立て
凡夫ゆく西も東も恵方道
還暦の少年梨の木を植えん
いっせいに落花反則ではないか
飛花落花蕎麦屋の階段きしませて
野火走る国に未完のカムイ伝
彼岸への首尾は上々阿弥陀籤
天晴というほかはない春キャベツ
小生の好きだった句は次の通り。
011 春の夢ここまで涙もろいとは
025 明細にこだわる男冬の蠅
043 飽食の国に生まれし青田風
049 理事長の秘書も顔出す新走
054 炎天や鍵がこんなに重いとは
061 登るときは気づかなかった冬木の芽
064 大それたこと思いつく団扇かな
067 いわし雲呼んで廊下に立たされる
070 少年の頃にも蒔きし種を蒔く
073 春の山どこもかしこも登山口
074 樹の上が好きな子だった秋入日
085 秋の野の一部となりし本籍地
109 まっすぐな時間を曲がる蝸牛
119 嗚呼またも言葉足らずか春灯
120 ありがとうの数に足りないカーネーション
135 秋深し無口な友が長居せり
往時の思い出の句が印象的であった。平易な句が多く、一頁二句組で、厳選して二五〇句に絞った句集であることが嬉しい。読者としては、読みはじめから終わりまで、一貫した価値基準で読み通せるからである。
イチオシの句を挙げてお礼に代えさせて戴きます。
120 ありがとうの数に足りないカーネーション
平明でありすぎる句である。しかし、こころの奥底にある「感謝」の気持ちは人間に一番大切な気持ちであろう。そして、感謝の心を持てる人は、幸せな人なのであろうと思わせてもくれた。福本さんの句には、おもくれの句がないし、軽い悔悟の句はあっても、痛烈な皮肉や社会批判の句はないように思った。それでいて、結構、こころの深奥に働きかける句が多いのである。掲句は、平明に過ぎるからと言って、見すごしてはいけない句である。
有難う御座いました。
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