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細谷喨々句集『父の夜食』


 平明でユーモラスな句が多く、愉しい気分で読み終えた句集でした。

 細谷さんは在学中に石川桂郎に師事、昭和45年に「風土」同人。その後「一葦」の創刊同人。現在は「件」同人。これは第三句集で、氏には、エッセイ集や坪内稔典・仁平勝との共著『句の一句』など、多くの著作がある。氏は確か小児科の医師であられる。2012年12月10日、朔出版発行。


 自選15句は次の通り。


  屋上に一人の月を祀りけり

  ふらここや順番待ちの子が歌ふ

  八月やオルガンの蓋軋みけり

  陽のあたる場所に必ず初雀

  何処までが此の世彼の世の蛍かな

  あの辺り月の在り処や雲の色

  飛蚊症残し溶けゆく揚雲雀

  行く春や自然死に〇検案書

  忘れ汐いそぎんちやくに指吸はせ

  禁足令かててくはへてやませ吹く

  ふるさとの青嶺の先の月の山

  呼吸するごとく雪降るヘルシンキ

  雪女まづ唇を塞ぎたる

  裸木を真赤な月が攀じ登る

  すれ違ふ犬の一瞥冬木立


 小生が戴いた句は次の通り。


010 くわりん捥ぐおでこ眼鏡の寺男

 「おでこ眼鏡」の男はよく見るのだが、俳句になったのを小生は見たことがない。面白い景を忘れずにすぐ句にするこの軽快さ。

016 棺の父へ春袷選る母小さし

018 ライオンの貌の擦り傷新樹光

025 さしたる山でなければこその春の雲

 「さしたる山でない」という言い回しの面白さと滑稽感。こういう山って我々のまわりに沢山あるではないか。でも、こういう言い回しで俳句にしたことはなかったと思い当る。

033 黒人の博士も一人聖夜劇

 学芸会だろうか、東方からの三博士役に黒人の子もいたのだ。微笑ましい。

046 繁盛を願はぬ職も酉の市

 お医者さんかもしれない。

069 便りより先に枝豆届きけり

065 整頓しものの失くなる年の暮

068 地吹雪や終点までの客二人

 過疎地を走るバスだろうか? このような状況のとき、どんな心理状態になるのか、北国育ちの小生にはよく分かる。

106 水引の咲く前の朱のことのほか

109 ぐじ焼いて昼酒欲しき思ひかな

 「ぐじ」は甘鯛の地方名。若狭あたりを旅されたのか? 喨々さんは食通であられる。150の2句も楽しい。

123 首無しのマネキンが着る冬衣

129 猫の子のおもひのほかの軽さかな

149 寒稽古滅法強き子が一人

 特徴ある子がすぐに目立つってことがある。先日赤池亘さんの句集『海峡』を読んでいたら〈かき氷屋に顔の利く生徒かな〉というのがあった。これも面白かったが、149は映像付きでなおさら印象鮮明。

150 柚子胡椒ぽちり乗せたる酢牡蠣かな

150 初午や造り酒屋の小豆飯

179 ボーイングフフフと読んでキャンプの子

 前書きに、BОEING777とある。

180 夕端居猫の指など数へをり

 こういうただごと俳句に妙に惹かれる。齢のせいだろうか。「ただごと」は俳句の王道だという説も頷ける。129もあるので、喨々さんは愛猫家なのであろう。

181 寝袋も吊られてゐたる曝書かな

185 あくびして耳抜きしたり鵙鳴く日

 「耳抜き」の俳句も珍しい。小生の場合、飛行機の中で気圧が変わるとよくある現象。

197 鮟鱇のふてぶてしきがムニエルに

 「ムニエル」で見事に予定調和を壊してくれた。


 実に楽しい句集でした。ありがとうございました。

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