まず「海鳥」の川辺幸一代表の急逝を心からお悔やみ申し上げます。コロナ禍が小康状態となったため、新百合ヶ丘で俳句の行事が催されました。そこで川辺さんにお会いできると楽しみしていたのですが、多分その日に亡くなられたのだろうか、お会いできなかった。
このアンソロジーは、そんな訳で、急遽、麻生明(元横浜俳話会会長)さんがまとめ役となられた。直近七年半のメンバー54名の作品を、同人は37句、会員は17句に絞って収めてある。
一読し、小生の好きな句を、勝手ながら、お一人一句ずつ選ばせて戴いた。ただし、川辺さんからは2句戴いた。その一句が〈この先は知らずにおこうほととぎす〉であった。これが辞世の句になろうとは、氏はもちろん、誰も気づかなかったであろう。
002 寒凪や向きを揃える海の鳥 川辺 幸一
この先は知らずにおこうほととぎす
009 みな違うところ見ている寒さかな 麻生 明
010 空おおうわが生涯の大桜 川島由美子
016 名月を時差ある国へ送信す 麻生ミドリ
019 すれ違う鎖骨眩しき薄暑かな 江原 玲子
022 道なりと言われて遠き残暑かな 大屋敷有司
027 山裾の乗換駅の鯉のぼり 金井 純子
031 何事もなかったように花のあと 釜田 二美
037 生き方を変えぬ男の冬帽子 川辺 佳子
041 向かい風味方につける鯉幟 吉柳 初美
042 旧道を通らぬ聖火花大根 小山 健介
048 頸のない石の仏や女郎花 小山みき子
050 老桜の標本木という誇り 阪口 夢堂
054 水仙の香りて風となる予感 坂本 牧子
058 老人を少し休んで野に遊ぶ 櫻井 了子
062 青き踏む地球の軽い跳ね返り 佐藤 早苗
069 暖房車眠くなるころ下りる駅 佐藤 廣枝
072 国境の争いなくて鶴来たる 柴田 政文
075 蟻一匹踏まず善根積んでおく 正藤 清鳳
080 コスモスに風の終りのなかりけり 曽我部東子
084 春愁や止まったままの観覧車 竹島 睦
088 父と子の手打ちの蕎麦や大晦日 中村 誓子
091 踏切にみかんの花の香と止まる 西村 玲子
096 インパールの戻れぬ父の鉄兜 速水 禧子
100 秋の野や風のうしろの風の音 原田 敦子
103 いい顔が集まってくる白あじさい 菱沼多美子
106 大寒や母は静かに縮みゆく 廣津 徳平
113 ドアフォンのレンズにお辞儀して小春 古田 享
115 担ぎ手に黒い肌あり秋祭 松島めぐみ
118 手に触れたものから春になっていく 松田 圭子
122 トンネルを出れば堂々雪の富士 三浦絵衣子
126 大晦日オペラハウスの大花火 安田 淳子
130 春の旅折鶴と置く枕銭 安田 寛子
136 兵馬俑の兵に持たせよ曼殊沙華 山本 国慶
138 青竹の寝覚めのあとの高さかな 青木 篤子
140 目覚めずに溶けてゆきたし春の昼 井浦 宜子
143 青紙に召されし愛馬敗戦忌 飯野 啓子
144 春風に欠伸している埴輪かな 池田 拓也
146 花の窓喜寿と卒寿とロゼワイン 石川 詔子
149 大小の弁当箱に今年米 石間まりや
150 白日傘わざと日向を選んだり 大久保 文
152 打水を踏みて言問団子かな 太田 優子
155 初夏やトランペットを吹く少女 重松 秀俊
157 夏草や時間の止まる校舎跡 舌間 翠
158 春めくや鉛筆削る音軽し 長縄 興子
161 火の鳥の卵と思うからすうり 升水恵美子
163 どうしてもわたしは残る芋など煮て 長久保通繪
有難う御座いました。
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