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董振華句集『静涵』




 『語りたい兜太 伝えたい兜太―13人の証言』や『語りたい龍太 伝えたい龍太―20人の証言』を編集著作した董振華(とうしんか、Dong Zhen Hua)の第二句集を読む機会を得た。序文は黒田杏子、帯文は長谷川櫂、跋は安西篤「海原」代表が書いている。『静涵』の題も題字も生前の金子兜太から貰っている。二〇二四年六月六日、ふらんす堂発行。

 中国生まれの董は、日本語が上手。金子兜太らが中国を訪問するたびにお世話をしており、金子夫妻から「中国の孫」とまで可愛がられてきた。いまでは、日中文化交流の懸け橋として貴重な存在となっている。一九七二年北京生まれ、北京第二外国語大学で日本語を専攻、早稲田大学で国際関係学修士号を、東京農業大学では経済学博士号を取得している。

 小生も句会を一緒したことがある。真面目で人懐こい好青年である。


 小生の気に入った句を列挙しよう。各句に、中国語訳が添えられているが、ここでは省略してある。


013 前向けば後ろ寂しき蛙かな

014 青き踏む蹠(あうら)に勿体ない心地

031 纏足の祖母の足裏のあかぎれよ

040 春眠深し釈迦の掌中かもしれぬ

049 郷愁や月光におく旅まくら

055 おほかみの咆哮ののちいくさ無し

071 目白来て眺める猫の目の光

073 まだ濡れている空を割る夏つばめ

079 ひぐらしやときどき言葉呑みこんで

089 しなやかな着地こころみ冬の蝶

090 寒の月この世無視するふりをして

102 帰郷とは軒端に泥を積む燕

110 月曜の予定真白き芒種かな

145 暮れ処(とこ)を故郷と思う春めく日

150 結び目の和らぐ日々よ更衣

154 モノクロの母の遺影に夏の月

164 気が付けばいつも末席草の花

164 世事に疎し夜長に親し寝そべり主義

175 壁紙の見事な継ぎ目去年今年

182 麦青し雲の片々一峰に


 分かりやすく、大和言葉的な柔らかい作品ばかりを選んだかもしれない。就中、イチオシを挙げれば、次の句であろう。


055 おほかみの咆哮ののちいくさ無し

 兜太の狼の句をも思う。董は、当然、秩父にも足しげく通ったことであろう。今日まで、平和がしばらく続いている。現状を大切にしたいと、兜太の平和志向の態度と共に、戦後八十年になる今、思いを深めている。

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