蜂谷一人(はつと)さんは、知る人ぞ知るNHKの俳句テレビ番組のプロデユーサーをされておられたが、俳人で絵も能くされる。2016年には俳壇賞を受け、著作には俳句百科『ハイクロペデイア』などがある。この『四神(しじん)』は氏の第三句集であろうか、朔出版、2024年1月21日発行。末尾には、あとがきに代えて「動画的俳句論」が挿入されている。テレビプロデユーサーをされていた目線から、著名な句を挙げながら、ユニークな俳句論を展開している。
小生の好きな句を抽出させて戴く。
009 花筏わかれて閉づる舟のあと
015 冷麦を水を離るる高さまで
018 親切な人に草矢を打ちにけり
019 折り紙の裏の真白や秋めきぬ
022 林檎むくまあるくほどけゆく時間(*)
024 提げるより担いでみたき熊手かな
034 リボンから老いてゆくなり夏帽子
041 まづ甘くだんだん淡き西瓜かな
046 マフラーを解く間も言葉あふれけり
047 ふうと吹く白湯の甘さや冬桜
067 汀より坂のはじまる里祭(*)
077 羽子板の押絵横顔ばかりなり
078 まん前が雛やエレベーター開き
086 正座して胸の高さや扇風機
108 レシートに赤き線入る桜桃忌
110 うすものやバカラを昇る銀の泡(*)???
125 目をつむる母が真ん中初写真
162 学校の時計が見えて苅田道
176 まあだだよ声とほざかる暮の春
181 北斎の版ずれを買ふ夜店かな
169 手袋を卓に境界線として(*)
190 鉄棒の下掘れてをり冬菫
(*)印は、蜂谷さんの自選十二句と重なったもの。どの句も平明で、しかし、平凡ではない。見る目と感受が確かである。ここでは、小生のイチオシの句を鑑賞しよう。
067 汀より坂のはじまる里祭(*)
気持ちの良い句で、懐かしさがある。なんとなく黛執さんの雰囲気でもある。祭りの神輿が海から担がれて上ってくる。それがそのまま村の鎮守まで、緩やかな上り坂を、水を滴らしながら練り歩くのであろう。子どもたちがその後をついて行くのかも知れない。湘南の雰囲気である。誤読であればお許し戴きたいが、懐かしさを覚えた。
楽しい句集を有難う御座いました。私事ながら一言。俳句結社「街」の「俳句相撲」でゲスト参加の蜂谷さんから特選を戴いたことがあります。その時の賞品が、蜂谷さんが画かれた「亀」の絵でした。いまも私の部屋に飾ってあります。
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