谷口さんは結社「運河」(茨木和生主宰)の副主宰。紀南医師会の副会長でもあられる。三冊の既刊句集から自選300句を収録して『谷口智行集』を編んだ。令和3年12月1日、俳人協会発行。各句に短い自註が付されている。
氏は800頁もある俳句関係の小論集『窮鳥のこゑ』を、書肆アルスから8月末に上梓したばかりで、12月にはこの句集。その意欲には圧倒されるばかりである。
小生の戴いた句は次の通り。
005 猪独活の花深吉野は更けやすく
006 砂浜に円あり盆の輪と思ふ
007 蝶にピン立てて勉強嫌ひなる
017 大文字も芸妓の首もまのあたり
020 草笛でなにか言はうとしてをりぬ
034 草虱つけ壇上の人となる
038 万歩計つけて徘徊ももちどり
059 山桜はなればなれに暮れてをり
069 母は子にはるか蓮根を掘りゐたり
075 乳にほふ霙が雪に変るとき
105 ありあはせなれどもといふ鹿の肉
112 常臥(とこふし)の祖父が稲刈る日を定む
123 黒文字の花や狸の恋ざかり
どの句にも感動が平易な言葉で鏤められている。中から小生のイチオシの句を選んでみた。次の一句です。
069 母は子にはるか蓮根を掘りゐたり
「蓮根掘り」は相当な重労働と聞いている。小生の俳友の糸大八(故人、画家)に、生涯で思いだすことは蓮根掘りのつらさだけ、という句があった。いま正確に思いだせないのが申し訳ない。谷口さんのこの句、自註として「男らに混じって泥にまみれる母に子は気付いていない」とある。小生は、少し違うことを考えていた。蓮根を掘って、遠くに住む息子に送るのだろう、と勝手に解釈した。「はるか」がそういう感じを持たせたようだ。子のためなら重労働も我慢できるのである。母の「は」、はるかの「は」、蓮根の「は」、掘るの「ほ」・・・「は行」がうまいこと韻を踏んでいる。
谷口さん、有難う御座いました。
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