検索
  • ht-kurib

豊里友行句集『母よ』



 豊里氏とは、もう二十年も前になろうか、小生が若手の俳人を取材し、インタビュー記事を「俳句界」に連載していたころ、沖縄をたずねてお会いしたのが初めてであった。そのとき、写真家でもある氏は、小さな洋菓子店の一隅で写真の個展を開いていた。沖縄の人と風景の写真展であった。その句柄は、当時から金子兜太にも褒められていたように記憶している。 

 該句集『母よ』は、2022年9月23日、沖縄書房発行の第四句集にあたる。


 小生が選んだ作品は次の通り。


009 さみしさの鮫が近寄る昼寝覚

028 魂や寂しい木の実の落下音

059 ひと粒の命の話にぎり飯

061 縄跳びの端を任され海光る

068 樹々が踊り出す我が一本道の春

077 沖縄を物語る黒塗りの沼

078 勿体ないくらい春風の揺り篭

085 航海の帆になる小匙分の愛

086 戰爭の貌したキャベツの断面

091 赤ん坊(アカングワ)の母と螢袋の私

094 核の世を泳ぐ鯉のぼりの目玉

103 骨の代わりの石を拾うよ夏至(カーチー)南風(ベー)

103 捨て石の島は丸ごと墓碑の風

106 嫌なものは嫌っ花月桃の涙

115 獅子舞の口より神酒をいただく手

116 食パンを食べる平和の方程式

118 みなマスクの子らの視線さくらんぼ

121 遺影が並ぶ中を眼が泳ぐ

121 凸凹の空の思い出あぶら蟬


 句集名は『母よ』であるが、母恋い句集ではない。あとがきに、沖縄戦で洞窟(ガマ)を逃げまどって九死に一生を得た祖父母や、まだ赤子だった母のことが書かれている。母に生あって、今の自分がいるのである。

 さらに、現下のウクライナや台湾情勢に思いを馳せ、いまは「沖縄戦に巻き込まれていった戦争の道を辿っているようにさえ感じる」と書いている。

 その点で『母よ』は、沖縄に軸足を置いた表現者の社会性俳句集なのである。

 ここでは掲げていないが、私にはかなり難解な句が多かった。俳句を通して戦争の非を叫ぶことは大いに是とする。できればもっと大衆に理解されやすい俳句が欲しかったような気がする。しかし、豊里氏の姿勢は、二十年前と変わらず、硬いものがある。そこを嬉しく思う。

閲覧数:55回0件のコメント

最新記事

すべて表示