越智さんは現在31歳の新鋭で、すでに「新撰21」や「天の川銀河発電所」に入集されている作家である。序文は池田澄子さんが、越智さんとの初対面から、上京し師事されるまで、およびそれ以降の経過をこまかく、情を込めて書いている。読んでいて楽しい。左右社、2022年6月23日発行。
自選句は次の10句。
冬の金魚家は安全だと思う
思い出せば思い出多し春の風邪
いい風や刈られてつつじらしくなる
コーラの氷を最後には噛む大丈夫
ひこばえや喉は言葉を覚えている
肝臓の仕事思えば金亀虫
きりぎりす眠くても手紙は書くよ
さくらさくら吸う息に疫病居るか
風光る消毒疲れなる指に
枇杷の花ふつうの未来だといいな
小生の共感句は次の通り。(*)印は自選と重なった。
015 ゆず湯の柚子つついて恋を今している
015 雪もよい湯気のにおいのからだかな
016 冬の金魚家は安全だと思う(*)
巻頭の句から連続3句を戴いた。3句ともよくできた句だと感心した。このままいくと全句を戴かねばなるまいと、次句からは慎重になった。辛くなってしまった。
031 噴水の水やわらかく水に消ゆ
035 金木犀両手で握手して別る
049 焼きそばのソースが濃くて花火なう
下五の「なう」にまいった。私にはできない。せいぜい「いま花火」としてしまう。脱帽!
051 都市の灯に星は隠れて秋の風
059 うたにしてことのはゆたかはるのみず
全てひらかな表記の句。私も時々やる。「はるのみず」への落し方に芸がある。
060 鳥雲に電話になると大きな声
そうなんです。電話だとつい声が大きくなる。「鳥雲に」もうまい。
064 目ぐすりの一瞬雲の峰ふくらむ
この身体感覚も納得出来る。
068 土手沿いに川は流れて返り花
このただごとぶり! 「返り花」でいい俳句になった。
071 逢うと抱きたし冬の林檎に蜜多し
076 さんしゅゆのはな待ち人を待つどきどき
この「どきどき」も真似できない。
083 紙皿を重ねて平ら春の風邪
086 ネモフィラや髪に気立てのよき風が
「気立てのよき」がうまい。達者だなあと思う。
099 混ぜて扇いで酢飯かがやく夏はじめ
よく見ている。写生もできる。
101 手に添いて手摺あるなり夏ゆうべ
114 川幅に橋おさまらず枯葎
このとぼけぶり。そしてただごとぶり。私は「ただごと」を俳句の要だと思っているので、誉め言葉です。老成すら感じさせられるが・・・。
108 朝顔や線路たどりて君の家
123 くちづけのおわりに息や雪催
青春俳句。もっと多くても良いのでは?
137 箸置きに箸つつましくちちろ虫
138 信号は夜を眠れず虫しぐれ
有難う御座いました。将来恐ろしい作家!
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