野乃さんは「百鳥」から太田土男主宰の「草笛」に所属した方。栃木の北部にお住まいだ。その第二句集である。風土に根ざしたたしかな作品が多い。ご自分も病を得ながら、この句集の境涯性はそれほど深くない。そこに救いがある。むしろ、硬質な抒情性に満ちた作品が多く、それが魅力だといって良い。『瑞花』(づいか)は豊年を思わせる「雪」の意だそうだ。
丁寧な序文は太田主宰による。2022年6月30日発行。
014 殷々と星々鳴れり大旦
017 万緑の海底を行く夜汽車かな
019 ポストまで一里の暮し白日傘
026 白鳥に火の鳥一羽混じりたる
032 月光を吸ひ山繭のうすみどり
058 春耕の畠から畠へ渡し舟
065 失ひし乳房の重さ青葡萄
074 清明の江戸紫の夜明かな
078 白鳥の来し夜や村の星の数
087 朝桜雪の鱗を煌めかせ
089 筑波嶺を風の消しゆく代田かな
090 八方に竹を躍らせ蛇籠編む
093 四つ葉すぐ見つける人や牧開き
102 遠野三山ホップの蔓の登りゆく
107 綿虫と白河の関越えにけり
125 藁屋根に湯気立ち昇る穀雨かな
126 どの窓を開けても桜朝ごはん
129 田植終へ酒仙詩仙に戻りけり
131 小三治の肩より落とす夏羽織
137 青葉木菟はるかに潤む生家の灯
154 藍甕の呟いてゐる藁屋かな
158 夭折の薄き詩集や龍の玉
172 初夢の髑髏ばかりの舞踏会
172 狐火を見し夜は強きシャワー浴ぶ
176 野遊びの芽吹きさうなる手足かな
179 鳥の巣の冠載せて摩崖仏
182 歳とらぬサザエ一家や笹粽
186 貫入の幽けき音の涼しさよ
189 夕焼や馬と語らふ装蹄師
190 夕螢いまだに怖き外厠
192 芭蕉布を纏ひ浮力のつきにけり
193 夕星や稲田に火照り残りたる
203 紅葉山とうに逝きたる人と遇ふ
208 牧閉ざす今年最後の郵便車
212 湯たんぽと猫をまさぐる足の先
219 雪道の足跡ふいに途切れけり
225 日照雨置かれしままの蓬籠
しっかりとした文体、すっきりとした抒情、これらが野乃句集の特質であろうか、感銘した作品が多かった。いつもは第一次句選からかなりの数を減らすのだが、今回はそのままにした。
地方にもこのような確かな作家がおられることを知り、つくずく日本の俳句の裾野の広さを感じた。感動多き句集である。
有難う御座いました。
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