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長谷川昭放句集『漂泊と定住』



 長谷川さんは「新俳句人連盟」「鹿火屋」をへて「顔」(川村智香子主宰、瀬戸美代子名誉主宰)に属し、神奈川県現代俳句協会の要職にある方。顔賞を受賞し、同人会長を務めていらっしゃる。その第一句集で、東京四季出版、2024年1月発行。序文・跋文はそれぞれ川村主宰、瀬戸名誉主宰が丁寧に書いておられる。


 自選12句は次の通り。


  全能の神薄氷を迂回せり

  東風吹かば身の丈のなんと窮屈

  人に酔い花に酔い私がいない

  瞬けば崩るる不安白牡丹

  カルメンの火傷しそうな薔薇を買う

  青胡桃秘密の部屋を改造中

  みなとみらい未来は未完夏の雲

  水澄むや人を信じてみたくなる

  蛇穴に入る自叙伝を書く為に

  方舟は地球を離れ銀漢へ

  紅差しの指が冷たい放浪記

  裸木の棄ててしまった虚栄心


 小生の共鳴した作品は次の通り。


015 寒明ける昨日の顔を洗いたり

027 自分史は句集と決めて三尺寢

030 鵙日和きょうは何処まで畝ろうか

041 梅が香や桃源郷の躙り口

055 夏草を百姓一揆のごとく刈る

056 八月の真ん中にある十五日

064 冬鷗メリーの行方しらないか

066 寒卵こつんと気付く親不孝

078 端居して背中が語るいごっそう

083 あじさいの白に始まる私小説

089 滝落ちて水を不死身と想いけり

098 鳥渡る柱状節理に波砕け

101 ラフランスの私語の聞こえる静物画

104 山眠る縄文土器をふところに

124 カルメンの火傷しそうな薔薇を買う(*)

124 象の鼻に蟻一匹の反乱

131 夕紅葉まだ仮縫いの夜会服

135 蛇穴に入る自叙伝を書く為に(*)

148 字足らずのように過ぎ去る二月かな

153 さえずりや港の見えるカフェテラス

158 せせらぎの風を着こなす花菖蒲

163 紫陽花や縁切り寺に男傘

169 停止線越ゆる晩夏の影法師

174 天主閣わが祖足軽柿が好き

178 雪おんな深雪と名のり歌舞伎町


 句集名『漂泊と定住』からは、一瞬、金子兜太を思ったのだが、句柄は前衛でも伝統でもなく中庸的であると思った。とまれ、長谷川さんの作品には、モノを見たとき、コトに接したとき、それぞれの感受に深い意味や寓意をこめて、象徴的に俳句化することが多いようだ。俳句は象徴詩だから、それでいいのである。それに対して、小生の最近の好みは、あまり意味をこめずに、たんたんと詠んだような句になって来ているようだ。年齢のせいかもしれない。所謂、一回性の「ただごと」的俳句である。次の句は、奥にいろいろ意味があるのだが、そこを慮らずに、書かれていることだけを読んで、気に入った句群である。


056 八月の真ん中にある十五日

 実に明快である。終戦記念日とか敗戦忌とか、思いが広がるが、十五日は月の真ん中の日だという指摘だけで、十分に面白い。こんなことを真面目に詠んだ人を小生は知らなかったので、感心した。たしかに八月であることは、重要な意味を曳きづってくる。だから余計に意味が生じてくる。だが、それ以前に面白かった。


083 あじさいの白に始まる私小説

 「白から始まる私小説」という表現が面白い。書き始めるとき、原稿用紙は白い。もちろん、子ども時代から始まるから、まだ純白である。それが私小説の進展に伴って、色がついてくる、あるいは、汚れてくるといっても良い。そこがまさに私小説的である。「あじさい」は「白い薔薇」や「白牡丹」「白山茶花」などで置き換えてもよさそうだが、雨に濡れながら、色もいろいろ変化する「紫陽花」が一番いいであろう。俳句は意味を追わない方がいいのだが、この程度は許されよう。


101 ラフランスの私語の聞こえる静物画

 静物画に描かれている果物が何かを囁いているのだ。感受の句。これも「ラフランス」が上手い。林檎やバナナよりよほどぴったりだ。セザンヌの静物画を思い出す。


124 カルメンの火傷しそうな薔薇を買う(*)

「火傷しそうな」という譬えが出色。常軌を逸しそうな迄の情熱的カルメン。その薔薇に赤以外は考えられない。しかも棘がいっぱいある。ドン・ホセも想えば気の毒。ところで「カルメン」の原作では黄色い薔薇だったようだ。だが、舞台では赤が使われているようですね。矢張り「赤」に限るでしょう。


135 蛇穴に入る自叙伝を書く為に(*)

 「蛇穴に入る」は、その頃の時候をさす言葉なのだが、読者は当然、蛇がこの句の主人公だと思って読む。そうか、蛇は穴に入って冬眠に移る前に、うとうとしながら、自叙伝を書くのだ……と思いながら、だんだん意識上では蛇が人間あるいは自分に置き換わって来たりする。何処かに閉じこもって、わたしも自分史を書こうか……。〈027 自分史は句集と決めて三尺寢〉があるので、長谷川さんにとっては、自分史は句集であるようだ。


 新春早々、楽しい句集を有難う御座いました。

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