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長谷川耿人句集『国芳の猫』




 長谷川さんは「春月」(戸恒東人主宰)の重鎮で、「春月」のたくさんの賞を貰っておられる。その第三句集で、本阿弥書店、令和五年六月十四日発行。帯文は戸恒主宰。「耿人俳句の五十代の作品の宝石箱」だとある。表紙の国芳の猫の絵が面白い。


自選14句は次の通り。


  酒蔵は嶺をそびらに山法師

  凍蝶や幻日消えてゆく迅さ

  枯葦の風をひき継ぐ川面かな

  えぞにうや馬柵沿ひを道消ゆるまで

  夜は夢へいざなふ色に作り滝

  無観客試合の空を鳥帰る

  海鼠腸や闇引き寄する漁港の灯

  みちくさを切り撮るライカ波郷の忌

  海胆突きの棹まつすぐに天を衝く

  裏口は勝手踏切神の留守

  風籟のすゑを気泡に氷面鏡

  屋形引く牛の尿へと夏の蝶

  まどろみをさそふ風あり雪迎

  国芳の猫の百態ふところ手


 小生の感銘句は次の通り多数に及んだ。


012 花冷や指の腹切る畳紙

017 陸酔(をかよひ)は夢と地続き仏桑花

018 鐘止んで腐草螢となりにけり

019 背には子を手には鼻緒を大花火

020 あの水の嵩は何処へ石たたき

028 行く秋や駅弁むかし車窓より

030 紅葉かつ散るや身幅のをんな坂

036 梅ほつほつ写真の裏の字におぼえ

038 キーパーは指示出し通し夕雲雀

042 十薬や判子ひとつに茶を出され

052 宿下駄の湯ざめ覚ゆるあたりまで

053 定席のうしろに遺影燗熱し

054 夕凍や二人して押す車椅子

059 寝返りを打てぬ砂風呂寒土用

064 目薬もうすべに色に花疲

077 玄人の旅荷の軽さ草の絮

085 製材の香の風向きに冬かもめ

091 無観客試合の空を鳥帰る(*)

096 晩涼や告白に良き右翼席

100 横罫に縦書のメモ賢治の忌

119 花冷や樺の茶筒の閉まりやう

125 酒蔵に風の道あり夏つばめ

126 髪切りしときが替えどき夏帽子

128 歩で測る露店の区画青しぐれ

129 かんざしの端は耳かき夜の秋

142 風花がふいに一条戻橋

145 山葵田は川のなごりの弧をゑがき

160 裸火を児はしげしげと避暑の宿


 (*)印は自選句と重なったもの。僅かに一句しかない。著者の好みと小生の好みが少し違うようだ。このようなことは良くある。小生自身の句集の場合もそうであって、たいへん参考になったものだった。

 気に入った句を幾つか再掲しよう。


019 背には子を手には鼻緒を大花火

 花火大会に子を連れて行った。途中で下駄の鼻緒が切れ、子を背に負ぶって帰ってくるのだろう。手にぶら下げた下駄、その鼻緒……ペーソス豊かな句。


054 夕凍や二人して押す車椅子

 車椅子の句は沢山あり過ぎて食傷気味なのだが、「二人して押す」が良かった。小さな子供が押しているのだろうか?


091 無観客試合の空を鳥帰る(*)

 コロナ禍の閑散とした野球場かサッカー場だろう。非情に「鳥帰る」とした。ヒトの世界は色々な規制がかかるが、鳥けものたち自由さを想う。


128 歩で測る露店の区画青しぐれ

 本当だろうかと思わせるほどの、この大雑把さが良かった。


160 裸火を児はしげしげと避暑の宿

 子どもたちは、案外「裸火」を観たことがないのかも知れない。家庭のガスコンロも電気式になっているし、風呂を沸かすのも、火は見えない。避暑の宿の囲炉の榾火がめずらしくて、「しげしげ」と見ている。体に直に熱線を感じながら……。

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