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頓所友枝句集『秋へ書く手紙』




 頓所さんは「沖」に平成6年に参加、爾来、30年間、能村研三、林翔両氏の薫陶を受け、珊瑚賞を授与されている重鎮である。俳人協会幹事をも務めている。第一句集『冬の金魚』に続く第二句集で、2023年3月1日、ふらんす堂発行。帯文は能村主宰。主宰は〈来し方に返り点欲し黒海鼠〉のほか、次の句をも挙げている。

  子の逝くや捲る頁を冬にして

  初時雨ボク治りますかの文字消えず

 この句の背景には、ご子息が交通事故に遭われ、重い後遺症と12年間も戦いながら、帰らぬ人となったという悲しい事実がある。普段は境涯俳句を好まない小生だが、あとがきを読んで感じ入り、そして、作品に戻って読み直し、母親の悲しみをしばし共有してみようと思った。もちろん、良く書けている「句」だとも思った。


 自選12句は次の通り。


  百年の桜は雲になりたがり

  知らぬ子の走るに泣けて運動会

  母見舞ふ見知らぬ街の実紫

  初時雨ボク治りますかの文字消えず

  円陣を組んで噴水立ち上がる

  ラムネ玉未だ出口の見つからず

  ブルーブラックインク秋へ書く手紙

  朝顔に水より生れし色のあり

  ひとりとは私がルール蜷の道

  水中花錘の枷を誰も持ち

  透かし見る火酒の黒罎夏の月

  遺されしものの祈りや冬の星


 小生の共鳴句は、次の通り。(*)印は自選と重なった。


007 祝歌の続きのやうに雪降り積む

008 娘婿「萬寿」提げ来る三日かな

016 歌声はきつとソプラノチューリップ

019 花の前佇てば幸ある人となり

020 百年の桜は雲になりたがり(*)

024 みどりの日家を丸ごと洗ひたし

026 初鮎や良き火加減の跳ね姿

029 こだはりは生醤油にあり冷奴

030 厨事譲りし刀自の夕端居

032 さう言へば母の水着を知らぬまま

033 一クラス分の挨拶受くる登山道

036 朝顔の百を開きし音聴かな

041 モダンとは廂なき家ラ・フランス

043 「すぐそこ」の滅法遠ききのこ村

054 「ありがとう」の溢れてきたる柚子湯かな

057 妻も子も知らずに逝くか黍嵐

058 子の逝くや捲る頁を冬にして

058 初時雨ボク治りますかの文字消えず(*)

063 かくれんぼならば出て来よ春なるぞ

070 鎌倉にてと結ばるる花便り

082 帰省列車うしろ二輛を切り離す

125 眉引くは鎧ふに似たり盛夏来る

128 蟬鳴くや七十五年分の黙禱

144 門灯のやうな黄菊を買ひにけり

149 冬の虹湖北湖南の色違へ

164 ひとりとは私がルール蜷の道(*)

167 十日目のさくらに翼生まれけり

182 白木槿咲きし数だけ落ちにけり

187 秋簾豆腐屋呼ぶに巻き上げて

193 振り向けどだあれも居ない枯野道

195 小春日を泳いでゆくかスーパーへ

198 狐火を見し夜はやたら饒舌で


 幾つかを鑑賞したいが、次の3句については、その背景を冒頭に書いたので、ここでは繰り返さない。


057 妻も子も知らずに逝くか黍嵐

058 子の逝くや捲る頁を冬にして

058 初時雨ボク治りますかの文字消えず(*)


 頓所俳句には、より普遍性や意外性のある作品がある。中から、気に入ったものを挙げてみよう。


024 みどりの日家を丸ごと洗ひたし

 「丸ごと洗いたし」という言い方に快感を覚えた。ヨーロッパの古い街の石造りの建物は永年の煤煙で黒ずんでいる。それをビルごと洗剤入り高圧水で洗浄している場面を観たことがあるが、脱皮するように、どんどんと奇麗になっていく。あんな風に簡単に家ごと丸洗いができれば、気分爽快になるに違いない。珍しい句である。


043 「すぐそこ」の滅法遠ききのこ村

 これも個人的な経験に重なる。小さな町の駅に着いて、駅前で宿泊先の名をいって、行き方を訊いたら「すぐそこ、信号三つ」と言われ、最初の信号を指さされた。それで歩いて行くことにした。たしかに信号三つだった。一キロごとの信号だったように思う。


082 帰省列車うしろ二輛を切り離す

 行き先は大きな駅のさらに先にあるのだろう。二輛切り離して、身軽になって、先へ進む。帰省先は小さな街であろう。「うしろ二輛を切り離す」で、なんとなく帰省先の佇まいが想像できる。軽くてうまい表現。これこそ俳諧味のある句だと思う。好きな句。


187 秋簾豆腐屋呼ぶに巻き上げて

 「簾(すだれ)」は「御簾(みす)」にも通じ、雅な感じがあるが、「秋簾」となればやや古ぼけた印象を与える。それをひょいと巻くって「豆腐屋さん」と呼びかける。下町風景が浮かんでくる。これこそ何でもない庶民の生活俳句である。だから気に入っている。


 有難う御座いました。

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