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飛鳥もも句集『壺中の蝶』



 飛鳥ももさんは、あえて言えば市井の一俳人である。しかもかなり熱心な俳句愛好家であるようだ。跋を坂口昌弘氏が、丁寧に書いているのだが、それは飛鳥さんが坂口著『ヴァーサス日本文化精神史』を読んでいたく感銘し、懇請したからであったようだ。あとがきに彼女が「何一つ賞歴もバックアップもない情熱だけの私に畏れ多くも跋文そして帯文までご執筆頂き……」と書いている。林誠司氏の俳句アトラスが令和4年7月25日に発行した。


 実は小生は、句集は、いや俳句は、作者の属人的情報に惑わされることなく、書かれているテキストそのままに、並べられている作品そのものをベースに、なにも加えず、何も引かず、先入主なしに、虚心坦懐に読み、感動をもらい、評価すべきだと思っている。難しいことではあるが……。

 坂口氏のこの句集に向かう気持ちも、私と同じだったのだろう、と想像しながら、読んでみることにした。余談だが、中城ふみ子が「乳房喪失」を上梓したとき、中井英一が彼女を発掘し、川端康成が世に出したようなものだった。ふとそんなことを思い出しいる。


 自選かどうかは不明だが、帯の13句は次の通り。


  その席は君がかがやく花ミモザ

  ひだまりの石のふくらむ桃の花

  夢ごこち出入り自由の壺の蝶

  頬杖はときに道草春の雪

  現し世の光集めてしやぼん玉

  昔から君は壺中で遊ぶ蝶

  打ち水の乾き月日は飛ぶやうに

  水音やあぢさゐの青ふくらます

  夫の背やいづれは一人夏蜜柑

  忙しいを美学のやうに蟻地獄

  引力と浮力の関係夏の恋

  白日傘ひらいて今日の翼とす

  もう父を召させ給へよ冬椿


 小生の感銘句は次の通り。(*)印は右の句群と重なった。


016 初乳てふいのちの記憶桃の花

016 ひだまりの石のふくらむ桃の花(*)

032 陽炎やその後気になる赤い靴♪

043 体温に十七歳の春がある

070 キャンプファイヤー友をしたがへ孤独来る

086 美しき桃にナイフは罪のごと

109 あたたかき色を集めて掃く紅葉

125 水仙をみわたす数の母の顔

127 夕暮はブラマンク色冬が来た

130 もう父を召させ給へよ冬椿(*)

150 日向ぼこ身の半分は影なりし


 〈水音やあぢさゐの青ふくらます〉も好きな句であったが、〈016 ひだまりの石のふくらむ桃の花(*)〉を戴いたので遠慮した。


 イチオシはつぎの句である。


130 もう父を召させ給へよ冬椿(*)

 この句、坂口の跋には稲畑汀子の〈長き夜の苦しみを解き給ひしや〉などを引いて鑑賞している。一方で私は、永田耕衣の〈朝顔や百たび訪はば母死なむ〉を思った。意味は違うが、作者の心を思えば、私にとってはこの130の句は、結構インパクトのある重い句であると思った。 


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